takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

ベストパートナー・その2

晴れ渡る空、木漏れ日の中。早朝の爽やかな、そよ風が心地よい林の中に美鞘は背筋を伸ばし立っている。小鳥が楽しそうにピーチク囀ってる。 両手を大きく広げ深呼吸を数回・・・空気が体に染み込む様だ。(美味い!)目を閉じ無想・・精神統一。あらゆる概念が消え自分自身のみになる。 「よし!」目をひらく。少しずつ手足を動かす。まずは柔軟体操から。体操選手の様に柔らかでしなやかな身体。バネのある躍動、瞬発力。 休まず次は木々の間を縫うようにフットワーク。巧みに10メートル程を5往復ダッシュする。当然息があがる。汗が迸る。頬が紅潮する。 5分程休憩をとり、それを再び繰り返す。(初日から張りきり過ぎは禁物だな。基礎体力運動はこれ位にしとくか)持ってきたジュースをクーラーボックスから取り出し ボトルのまま口のみする。(ぷは~!おいし~!)散歩するように風景を楽しみながら歩く。(じゃ、そろそろ)剣を鞘入れから取り出した。シュルっと剣を抜く。燻された様な黒い剣。両手に持って剣道の正眼の構えをとる。気合を込め「エイッ!」と一振り。刃が暁色に変わった。(よし!)「エイッ」「エイッ」 数十回振ってみた。オレンジ色に近くなった。(おお~!)(よ~し)夢中になって振った。傍に鈍くさそうな犬が首輪に鎖をつけたままヨタヨタと近付いている事さえ気が付かなかった。「ガッ!ガッ!」と息を切らして、これまたフラフラ近付く人の気配で初めて素振りをやめた。その人物を見て唖然・・・。ランニングシャツと柄パン。おいおい~下着姿かよ~。昭雄であった。 しかも麦わら帽子にピーチサンダル。虫かごを肩に掛け、虫取り網(安いヤツ) 《コイツ、小学生か?!それにしても、なんてレトロなスタイルなんだ・・・・。》美鞘は、あまりにはまり過ぎている昭雄を呆然と見ている。一方、ガッツ(犬の名前)を追い掛けてきた先にまさか憧れの美鞘が居るなんて、これは夢なのか?ん?ちょっと、まて。握りしめてるのは夜店で買ったのか発光する刀・・・ 紅潮した顔に粒の汗かいて・・・・。おもちゃ、真剣に振ってたのか~? イメージぶっ壊れる程面白い人だな~。『ぷぷっ、あはは~!』 堪え切れなくなって、お互いを指差し大笑い~。腹をかかえ涙を流し笑い切った後、美鞘は思った。何で私がこんなに笑われているわけ?ちょっと不愉快になった。「お、おはよう。みさ・・・北見さん。こんな所で会うなんて~。ところで・・ぷっ!・・いい刀だねェ。近くに祭りあったっけ?・・ぷははは~。」
(はは~ん、そういうことね。ちょっとだけ 驚かせてやろっと)
「佐藤君。この刀を持ってる私に出会えるなんて、あなた超ラッキーなボクちゃんね~。ラッキー・ボーイのあなたにと・く・べ・つ・マジック・ショーを披露しちゃおうかな~?」(えっ?えっ?ぼっ、僕に?! ホントに~?僕なんだよね?だって僕しかいないもん)とキョロキョロ辺りを見渡した。そして初めて自分の格好を思い出し、冷や汗が吹き出てきた。 見るのがこわいので手で触り確認して(あちゃ~えらい格好してる~。もうおそいけど~。)昭雄の足元で如何にも雑種です~って感じのガッツが嬉しそうに飛跳ねてる。「ふんふん!みせて!みせて~ マジックショー!」(でもこのままの姿でいいんだろうか?)(常識なさすぎ~、なんて思ってないだろうか?自分が彼女だったら・・・ ガーン!絶対思う!間違いなく思う・・・)
「あ、あのさ~ちょっと着替えてくるわ。」(こりゃあいくらなんでもこのカッコじゃあマズイっていうかハズカスイっていうか、・・・)「ちょっとだけ・・・、10分程待っててよ。」「ん?何で?まあいいけど。 あなたン家近くなの?」美鞘が訊く。「うん!すぐそこだよ。急いで着替えてくるから~」 そう言って駆け出した。ガッツも後を追った。その後姿を目で追っていると・・・。 住んでいないと思っていた廃屋らしき家に・・・入って行った。「あっ・・・」 真夏なのに、ピュ~っと一陣の木枯しが吹いた様な気がした。(訳ありだな~・・・) 腰掛けるのに丁度良い岩が一つあったのでそれに座り遠くの景色をボーっと観ながら何となく考えた。彼のあの家で生活する日々はどんなだろう。何があったのだろう。私と同じ日に転校してきたのだから2ヶ月前か~。地元じゃない風だったから、その少し前に此処へ来たんだろうな。学校じゃ結構ドジするし、それでも屈託無く笑ってて、悩みなんて無い感じなんだけどな。人って外見じゃ分からないものなんだなあ~。 そんな事を考えていると向こうの方から彼が駆けて来た。めちゃくちゃ嬉しそうだ。こちらに向かって「お~い」なんて言ってる。今にも手まで振るのじゃないかと、ちょっとドキッっとした。(なんで?) 黄色のTシャツに半ズボン、運動靴。ありふれた格好なのに(彼らしいな、よく 似合ってる)と感じている今の美鞘であった。