takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

ベストパートナー・その6

昭雄は思ってもみない絶好のチャンスが訪れたと思った。チケットを片手に美鞘に電話した。美鞘もとても喜んで、どんな事があっても必ず行く~!なんて、はしゃいでいる。
美鞘は単純にコンサートを観に行ける事が嬉しいのだ。まっいいか~と昭雄。 『キリくノ隊』のライブ・コンサートは観客のコスプレで有名なのだ。忍者の装束をした若者達が 紙やプラスティックで作った手裏剣や刀を持参して会場を盛り上げる。また、会場のグッズ売り場ではキャラクターのプリント入りの『忍びグッズ』を結構な値段で販売している。日頃始末して貧乏生活している若者も、この時ばかりは、大いに散財する。材料費に不釣合いな価格を見て、由真の心中は複雑だ。チケット代だけでもバカにならないのに・・・。(無理しなくていいんだよ~!グッズ揃えなくても応援してくれる気持ちさえあれば、それだけでうれしいんだから。しかし事務所もほんと抜け目ないな。このライブ撮影して、後にDVDに焼き直して販売する。一粒で二度美味しいってやつ?来れなかったファンの為という大義名分の名の下に・・・)しかもブログで「買ってください」なんてPRしなきゃあならない。気持ちが乗っていないから、盛り上がりに欠けるメッセージになる。そんな時、マネージャーの高畑は言う。「人気商売は機を逃さず、売れる時にはトコトン売り尽くすんだ。買い手市場の今なら、値段は寧ろ高いほうが箔がつくし、ありがたがる。そのうち買ってくれと泣いて頼んでも、見向きもしてくれなくなる時期が必ず来るんだから。稼げるとき稼ごうとするのは事務所としては当然の事ですよ。」それは、いままで数々のタレントや歌手を世話してきた経験にもとづいた意見だから、由真はそういわれると「ぐぅ」の声も出なくなる。だから熱心なファンが、家でせっせと手で作ったグッズや衣装を見ると(ありがとう)と感謝の気持ちが芽生えるのだ。
グッズの持ち込みは、勿論入る前に厳しいチェックを 受けるのだが、昭雄は美鞘に剣を持ってくるよう提案した。 「なにか言ってきてもこちらには警察官がついているんだ。うまくいくさ。」なんて 気楽なものだ。 そして当日。会場前は既に大賑わいで、橘のグループを見つけるのに苦労した。 橘たちはショッキングピンクのTシャツ。胸に5人のイラストと背中に紫色で『キリキリくノ一隊』のロゴがプリントしてある。 二人は思わず顔を見合わせ、苦笑してしまった。向こうもこちらを見つけたのか 手を振って「お~い」なんて言っている。近着くにつれ、満面笑顔だった橘の顔が 険しくなりすぐ傍まで近付くと、ムスッと怒った様な顔になってる。 「佐藤君、ひょっとして友達ってその娘?」面白くなさそうだ。「はい。北見さんと言います」 気にせずニコニコ答えると美鞘を見た。「チケット戴いてありがとうございます。嬉しくて 昨夜はよく眠れませんでした~」なんて美鞘が言う。「なんだ・・クソッ!ガール・フレンド いっちょ前にいるのか・・・ぶつぶつ・・・」なんて小声で呟いている。それでいてシャイな性格の橘は、真正面から美鞘を見ることができない。 「あれ?この娘・・・」と、メンバーの一人が驚いた様に言った。みんなは一斉に彼を見 そして 美鞘を見た。「似てないか?・・・由真に・・・」「ん?」「ん?」と各自声を出しシゲシゲ ジロジロ囲むように見られた。「あ、あのう~やめてくれませんか?そういうの 苦手なんです~」後ひざりして両手を前に出し振った。勿論、由真の名が出た時点で 他所向いていた橘もジロジロ組に参加していた。・・・昭雄も・・・。
「言われて見れば・・・」と橘。美鞘と由真を比較すると・・・美鞘( 眉毛・・キリッと一直線 目・・・少し大きいが涼しげ 鼻・・スッと鼻筋が通っている 口・・薄くも厚くもなく上品な 唇) 由真(眉毛・・・三日月型に湾曲 目・・・大きく愛くるしい 口・・・唇は厚めで セクシィー)・・と橘の見立てだが、背格好 顔の輪郭はそっくりそのままじゃ~!) それは口に出さず、「ん?まあヨクヨク見れば似て無くはないなあ~」そう言って 興味無さ気に空を見る。(なんじゃ~?めちゃ美人やんか~???)この?は、昭雄に 対してであった。
(ん?)橘は美鞘がタスキ掛けしている、鮮やかな深紅の布袋が目に留まり「なんだ?それは。 」と、訊いて来た。二人は(うへっ!)っと一瞬緊張したが「あっ、これですか? 忍びグッツを持って来たんです。」っと美鞘は明るく答えた。 「へ~、ちょっとみせて・・・」と橘。でもこのまま渡すわけにはいかない。渡せばあまりの 重さに驚愕するだろう。コンサートどころではなくなる。刀を取り出し、片手で鞘の端を持ちな がら触らせる事にした。「あれー?ずいぶんと軽い素材でできているんだなあ~。 これはプラスチックや紙でもないし、・・こんなの見たことないなあ~」と橘。 「あ~これですか~?学生の間では今とても流行っているですよ~。ゴムとプラスチック と・・・セラミックの化合物と聞いたような、聞かなかったような~。エヘッ、よくわかんないです~」そう誤魔化した。「へ~流行っているのか~。今の流行には付いていけないなー」そうい って半分納得顔で、美鞘に返した。