takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

月光の剣その1

緊急マイク放送が流れた。由真に関しての内容は避け、調整中なので暫くの間、静かに待つようにとの事だった。流石にプロ。この放送でざわついていた会場は、次第に静粛さを取り戻していった。しかし見渡すと、観客は皆一様に不安げな表情をしている。 昭雄はふと橘が気になり前屈みにのぞき見た。すると・・・いない!(トイレ?) 胸騒ぎがする・・。暫く様子をみていると、橘がマネージャーを連れてこちらに来るのが見えた。やはり行動していた。(静かに見ているタイプじゃないもんな~)だが様子が何かおかしい。自分たちを見ながら近付いて来る。すぐ傍まで来て小声で言った。「おまえ達、 俺と一緒に 楽屋まで来てくれ。」言うなり昭雄の手首を取り引っ張った。問答無用 だった。「な、なにを・・・」二人は驚いてへっぴり腰になったが、彼等の真剣な顔をみて 頷き、そして付いて行った。由真はベットの上で静かに眠っていた。痛み止めの薬を飲み、それに睡眠効果があるのか、小さく寝息をたてている。メンバーは皆沈鬱な表情で、うつむき加減だ。マネージャーの高畑の 話では、間もなく救急車が来て病院に搬送するという事だ。ファンが心配するだろうから、会場近くになったらはサイレンを止めてくれる様頼む事も忘れなかった。キリクノ隊はアクションを主体とするアイドルグループなので、万が一の為に応急治療ができるスタッフをいつも待機させている。費用はバカにできないが、それほど今のメンバーには価値がある。診察したスタッフの話では、腱は断裂しておらず、ただの捻挫だという事。2週間もすれば 完治するらしい。立つことは出来ても動き回ることは出来ないから、当面は歌うことだけになるよう だ。 「ただ・・・今日のカーテン・コールの後サプライズと称して新曲の『月光の剣』を披露するつもり だったんだ。ファンたちにも、ある程度の情報は漏れていて、それを心待ちしている者も大勢いるんだ。 由真をはじめメンバー達も今日の為必死に練習してきたんだが・・・こんな事が起きるなんて・・・。」 高畑は椅子に座って悔しそうに呟いた。そんな彼の肩にそっと手を置き橘が言った。
「高畑さん、自分に秘策があるといったでしょ。何の為に彼女を連れてきたと思ってるんです? 彼女をよく見て下さい。・・・あっメイクさん彼女を鏡台の前に座らせて。あなたの腕の見せ所だ。
「ふふっ、やはりね。入って来たときピーンと来てたのよ。まかせといて!」 何も言わなくても分かっているらしい。美鞘も朧気ながら理解した。要するに替え玉作戦 をやろうって事。フアン達からステージまでの距離はわりとあるし、照明をうまく使って 声は口パクでダンスは他のメンバーだけでいきゃ乗り切れると言う発想だ。フアン達を 騙すのには少し気が引けるが、気が付かなければよいのでは?と言うのが橘的思考。昭雄は(こんなん詐欺じゃん。警察官の発想じゃないよ~)と、心の中で呟いた。