takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

月光の剣・その3

常識で考えられない事が目の前で起こった時、人間というものはあらゆる機能が低下するらしい。そのステージが終わった直後は美鞘と昭雄以外の人達は、口を半開きにして焦点の 定まらぬ目で彼女を見るだけだった。「みなさーん、今日はホントにありがとー」 と美鞘がマイクで挨拶しなかったらいつまで経っても状態は変わらなかっただろう。 観客は皆、一様に(ハッ)と我に帰り終演のマイク放送に促される様に会場を出て行った。
美鞘と昭雄は二駅向こうの在所なので皆と別れ列車に乗った。 「ねえ、美鞘さん。なぜあんな大勢の前でアレを観せちゃったの?、みんなパニくってたよ。」 ガタゴトと電車が古い町並みの中を走っていく。2人の前に座って居眠りしている おばあさんの首が揺れに任せて前後左右にグラグラと動いては、元にもどる。
「えへへっ、勝手な事してごめんね。でもね、私あれでいいと思うんだ。 テレビで取り上げてくれりゃあ敵がそれを観る可能性あるでしょ?ステージに立って一瞬そう閃いたの。敵ならすぐにあの刀の事も見破るだろうし、由真さん本人じゃない 事もわかると思う。《あなたのすきにはさせないわよ》って私からの挑戦状を叩きつけち ゃえ!ってそう思ったの。」 「あww美鞘さん。それなら尚更危険だよww。こちらは相手の正体分からないんだよ。 いきなり襲ってくる可能性だってあるし・・」
「そう、あのステージがメディアで流れたら隙はつくれない。覚悟しているわ。 でも切っ掛けがほしかったの。深く静かに進攻され取り返しがつかなくなるより、不利には なるけど早く正体がつかめる可能性が高いから。」心配そうに見ている昭雄に 笑顔をつくってそう返した。笑いかけられても昭雄の不安な気持ちは変わらなかった。