takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

月光の剣・その4

「皆さんこんばんわー、イブニングニュースの時間です。」
爽やかな笑顔でニュースキャスターの岡田が挨拶し、横にいる女性キャスターの矢田も同様に頭を下げて番組が始まった。一通り政治経済や、事件報道を 映像に合わせ解説して芸能ニュースのコーナーになった。芸能関係担当の 西野リポーターが出てきて開口1番「今日はですね~、皆さんがアッと驚く映像を 持って来ました~!」「まずはこれをご覧下さい。」 電車から降り美鞘と別れて家に着いたのは5時過ぎ。 母が夕食の支度をしていて、昭雄は一声かけてテレビの前に座った。さすがに今日は疲れた。「ふ~」っとため息交じりの息を吐くとリモコンの スイッチを押した。映像が現れた瞬間ドキリとした。美鞘が映ってる。日下部の田舎町でのコンサートにはテレビ局は入っていない。 恐らく局に多くの投稿が寄せられ、プロダクションから録画を入手したのだろう。プロダクションもキリクノの新曲の宣伝が無料で出来るとあって、喜んで提供したらしい。マイクを持って口パクで嬉しそうに歌っているふりの美鞘がいる。よく観てみると歌が終わりに差し掛かった頃顔付きが変わった。真剣な表情になったのだ。(そうかーこの時思いついたのか~)そして・・背中に背負っている剣に手を伸ばし・・抜いた。抜き身の刃が早くも暁色に変わって、それを高速で 操ると光の輪は次第に黄色に近くなり、やがて殆ど蛍白色の眩しい発光体となった。たぶん 最高の興奮状態の上に仮想敵をイメージしているから剣がそれに応えているのかもしれない。昭雄は自分なりに、そう分析した。この時最前列に戻ってメンバーと一 緒に観ていたからあの感覚はしっかりと覚えている。羽根のように軽やかに振り回しているが刃から生じる風圧と空を切る音『バババッビュビュビュッ・・・』 最前列は、まるで嵐の中にいるようだった。あちこちから、悲鳴が 聞こえ昭雄も息絶え絶えで凌いでいた。(う~ん、実際あの剣、重さはどれくらいなんだろうな~。推測不可能か・・・。だけどこの映像を観ると、不可解な現象が起こっていたと思えるな~。観客向いて強風を巻き起こしたのなら、気流は剣によって動いたわけだから、彼女の衣服や髪の毛は剣に吸い寄せられなければならない。なのに、ほとんど吹かれている状態ではないよな。やはり、地球上の物理的常識が通用しない代物なんやなー、う~ん)テレビの前で腕組みして考えても 答えはでない。それにしても凄すぎる光だ!あの時はあまりに眩しいので目の前に手のひらをかざし、その隙間から彼女を見るとまるで満月の光に包まれた妖精のようで 我を忘れ見とれてしまっていた。そして・・そうだここからだ。皆が背筋を凍らせて 目を閉じた。剣を頭上高く放り投げた。空中で半回転し刃先を下にして落下してくる。いくら本物ではなくても刃が真っ直ぐ 頭めがけて落ちてくるのだから、まともに当たれば大怪我は必至。だが彼女は両手を広げて見上げもしない。殆どの者が悲鳴をあげ、誰一人正視できず目を閉じたのだった。あれはどうなった? 皆が我に帰って顔を上げると、彼女はニコニコ笑って挨拶していたが・・・。
今は安心して観ていられる。気持ちいいくらい輝く刃は一直線に落ちていき・・ 頭に(あれ?)すり抜けて?床に落ちて・・こない。なぜ?あっ、そうか!背中の鞘に見事納まったんだ。それにしてもそれって神業に近いよな~!でもこれだけ大きくメデイアに取り上げられたら間違いなく敵も気付くだろう。(しかし美鞘さんも、思い切ったデモンストレーションやったものだ)リポーターが、興奮状態で、何やら騒いでいるTVのスイッチを切り、今後の行く末を案じる昭雄であった。