takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

月光の剣・その5

未無來所長は東京にいた。厚労省高官の乾から呼ばれたのだ。ここには、あのドリンクを飲ませた 加藤もいる。来る途中考えた。(加藤はもう用無しだな・・・。消えてもらうか)警備 員に乾の名を告げるとしばらく待たされたのち、許可証を渡された。エレベータに乗り込むと前もって聞いてある階数のボタンを押した。 ほとんど体感も無く上昇してゆく。・・と、3階で停止して、2人乗り込んできた。 何と偶然にも加藤だった。双方瞬時に気が付いた。が、加藤の部下がいたためお互い 素知らぬ体を決めた。今の加藤にとって、所長は厄介者にほかならない。 加藤は彼の来訪の目的を、頭をフル回転させ模索した。自分は間違ってもここには呼ばない。(なぜに?・・・乾かww!) 乾が何らかの手を使って彼を探し出したのに違い無い。絶対に阻止しなければならないと思った。「おい丸井君、ひょっとして金本製薬の書類もいるかもしれない。悪いが次の階で降りて、取りに行ってくれないか?」そう言いながら次の階のボタ ンを押した。丸井は一瞬首をかしげたが「分かりました、取りに行きます。」そういって 降りていった。 「お久しぶりです、加藤さん。」所長は深々と頭を下げた。そして「その後、体調の方はいかがですか?顔色もずいぶん良さそうですが。」と言って笑った。 加藤は「お蔭様で毎日有意義な日々を過ごしています。」と挨拶を交わしたが 目は笑っていない。「ここにはどういう用件で?」そう言って猜疑の目を向けた。
所長は少し首をかしげながら「いやー自分でもよく分からないのですが、是非とも 会って話をしたいと言う方がいましてね。それで伺った訳です。」「確か、乾さんと仰いましたか。」意味ありげに薄ら笑いを浮かべて答えた。(くそっ!やはりかww!)いきなり頭に血が昇った。体も心もバランスを失い、その場に崩れ落ちそうな感覚に陥った。
(やはり!やはりそうだったかー!この男を殺してでも阻止しなければww!) とっさにそう思った。精神が崩壊寸前だ。(今の自分なら、若い頃ラグビーで鍛えあげたパワーもそのまま出せる。やってやる~!)後先考える余裕は全くなくなっている。
所長が何気なく、点滅するボタンを見た瞬間、野獣の様な勢いで両腕を首めがけて 伸ばした。両手で力いっぱい締め上げる。そして釣り上げた。歯がガチガチと音をたて折れる位、力を入れていた。『ゴキッ、ゴキッ』くぐこもった嫌な音がした。頚骨が折れ、ガクリと頭がたれた。
硬直した手と腕がなかなか死体を離さなかった。ズドンと床に落ちた所長を 荒い息使いをしながら、呆然と見た。(やってしまったー。この先どうするww) その場にしゃがみ込んで頭を抱えた。・・・とその時不可解な事が起こった。 「ク ククッ加藤さんもひどい事をする・・・。 殺人は重罪ですよ。」頭の上で声がする。冷や汗が体中から吹き出した。恐る恐る顔を上げると・・・立ち上がっている!所長がー。頭部がブラブラと胸の辺りで 振り子の様に揺れて、逆さになった顔が笑っている。