takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

月光の剣・その6

「あわわわっ!」加藤は逃げようとする気持ちと裏腹に、足がすくんで動けなくなりその場に腰が抜けたようにしゃがみ込んだ。お尻の辺りの床に水溜まりができている。恐怖の余り漏らしてしまったようだ。所長は両手で自分の頭を持ち上げて「頭って結構重いもんですね~、ヨイショっと。」首に乗っけて骨をはめ込んでる。「あ~、残念ながらもうすぐ降りな きゃならない。あなたは広告塔として、よくやってくれました~。お礼を言いますよ。」
「あ・り・が・と・うwww!」と言いながら腕を前に出し、握りこぶしを作って念を込めた。 その刹那「ギャwww」と叫んで加藤は床の上をのたうち回った。「あなたの中に入っ ている私の体液が活動をやめました。あなたの血に替わって血管を流れていた、私の体液の流れが途絶えたのです。いずれ日本 、いや、世界中の人間がそうなるでしょう。あなたは皆さんより少しはやく絶命しただけですよ。」そう言ってすでに息絶えてる加藤を尻目にエレベーターから降りてい った。ドアをノックすると扉が開いて美人秘書が「未無來さんですか?お待ちしてまし た。」と、丁寧なお辞儀をして乾のデスクに歩いていく。一言二言話した後、彼女は 部屋を出て行った。乾は所長をその場に立たせたまま書類に目を通してる様子で、無視している。(こいつら流の虚勢か。主導権を握る為のしょうも ない演出の一つなんだろう。)未無來は苦笑した。しばらくたってヒョコっと顔を上げ 「おお~すまない、仕事が立て込んでてね~」「どうぞ、こちらへ。」とソフアに誘い向かい合った。乾は誰もいないと分かっていながらキョロキョロ周りを見渡した後こう言った。
「私の友人の松田君から、話はかねがね。いや~、組長やっているけど、なかなか いい奴なんだよ~、彼はー」至極、機嫌よく話しかけてくる。(よほどこの薬が欲しい 様だな。じゃあふっかけてやるか)「松田組長の話では、うちの開発した 栄養剤をどうしても欲しいとか・・・。確かにこの薬の効果は絶大です。それ故にそう簡単にはお渡しできません。松田組長なら10億がせいぜいだったが、あなたなら その10倍の価値を条件に付けさせていただかなければ・・・。あなたの顔で融資の道筋をつけてもらい、これから量産していく薬を厚労省推薦 として扱って頂きたい。それを受けてくれればこの場で特別品をあなたにお渡しできますよ。」ニコニコ笑って所長はそう言った。薬は喉から手が出るほど欲しい。 が、あまりにもキツ過ぎる条件だ。下手をすると自分の責任問題にもなりかねない。 「どうですか?」そう言いながら胸の内ポケットから例のアンプル剤を取り出した。 条件をのんでくれりゃ今すぐにでもお渡し出来るのですがね~。」
「あ~、そういえば加藤さんどうです?元気にやってますか?せっかく来たので彼にも会ってみようかと思ってるんです。」嬉しそうに所長。 加藤の名前が出た途端あの時の屈辱がよみがえった。(くそ~!アイツだけは 許せん。あれから益々張り切りおって、ワシを脅かす存在になった) 頭に血が昇って、赤黒い顔になる。「その薬を飲めば本当に彼の様になれるのだな?!」 所長はゆっくりと首を縦に振って「間違いなく・・・。私が保証します。」乾はその時胃がシクシク痛くなった。最近ストレス が 溜まって乾の体は、至る所がボロボロになってる。体調も悪く、激瘦せしてきている。「おっ、薬を飲む時間だ。」高級そうな腕時計をちらりと見て、重厚なデスクへと向かおうとした。所長はそれを手で制して「どうぞ。」と、アンプル剤を渡した。
「全ての病から開放されます。」あまりにも魅力的なひと言に、乾は所長を見つめた。穏やかな笑顔で優しげに頷いている。乾は暗示にかかった様に先を折り、そして・・・一気に飲んだ。「ウガガガww!」 叫び声とも、悲鳴とも取れるような奇声を発して床をのたうち回る。 それを冷酷な顔つきで見ながら、(市販品にはこのアンプルの100倍、いや500倍ほどに希釈をして、もっと飲みやすく工夫しなけりゃ売れないな ~。しかもタダくらい安くして全世界の国民に飲ませなきゃ。効き目は多少遅くなるが、時間なんていくらでもある。ふふっ、何の問題もないさ)やがて、むくりと起き上がっ た乾に「どうです?」と言って笑顔をつくった。