takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

悩めるロボット・その1

未無来がスクランブル交差点で観たトピックを、同日の夜遅くに放送する報道番組でイブも観ていた。
イブは自分が勤めているスーパーで、あの怪物の来訪を受けた日以降、ニュースや報道を常に神経を尖らせみていた。
イブのなかの赤い石は、未無来が宇宙的に恐れられる『グレート・デストロイ』と同一の生物だと瞬時に認識し心底恐怖した。
(この星にあいつが来た以上、地球人の存亡は限られてしまった。私があいつの存在を地球規模で知らせる力はないに等しいし、知れたところでどうしようもないだろう。あまりにも、全てに於いてレベルが違いすぎる。あいつにとっては地球人なんて赤子の腕を捻るも同然なのだから。
博士によって造られたこの体でも、とてもあいつに太刀打ちできない。守り抜くのが精々だろう)だが、彼がイブに対しては攻撃しないといい残した。
イブとしては、この石田一家だけは何としても守り抜きたいと思った。万が一の時は自分が犠牲になってでも、とも思う。自分ひとり生き残っても何の意味も成さない。この一家と共にいるから生きていけるのだとも思う。そう思うほどイブの感情回路は機能し、人間に近くなっていた。あの日から、常に報道番組や、ニュースには気をつけて観ていた。ほんの些細な事件でも、後ろに彼の存在がないか疑うようになった。イブはそれくらいの方がいいのだと思っている。見逃して後悔するよりずっといいと・・・。そしてその日も均にお茶を入れ居間で寛ぎながらTVを観ていた。イブは芸能関係はよくわからない。強や歩美は、そういうことに興味のある年頃なのでよく話題にしているが。芸能担当のキャスターが強のよく話題にしているキリクノ隊について話している。確か強は最近ファンクラブに入会したと言っていたような・・・。そんなことを思いながら何気なく画面を眺めていた。『・・・それではその場面をもう一度再生してみましょう。皆さんきっと驚かれると思いますよ。』美鞘の剣によるパフォーマンスが始まった。「あっ!」イブは始まってすぐに気がついた。(あれは・・・。あの剣は、グリーン・ビッチ星の・・・。)驚きの余り、イブにしては珍しくポカーンと口を開けたまま観ている。均が「凄いね~」と、声をかけても聴こえていないようだ。
早速、コンピュータが解析をしだした。キリキリクノイチ隊のメンバーのデータが次々と映し出される。画面の中央にいるボーカルの由真のデータが出る。コンピュータが、画面の人物と由真とグラフィックで重ね合わせた。《不一致》と出た。イブは思わず「由真ではない?」と声を漏らした。それが聞こえたのか均が「何?あの子は偽者だというのか?」均はイブがロボットだと知っている。イブが言うのだから、間違いではないだろうが、どうみても本物にみえる。
「だとしたら何故なんだ?」均が訊く。「私にも解からない。でも・・・。」赤い石は考えた。グレート・デストロイが出現したと時を同じくして宇宙最高技術を誇るグリーン・ビッチ星のハンディータイプでありながら究極の兵器。それを手にした謎の少女が現れた。これは一本の糸で繋がっているのではないか?
もしそうであるならば暗闇の中の光になると思った。彼女を味方に付ければ、ひょっとするかも・・・。イブの瞳が輝いた。それは僅かばかりの希望の光なのだが。