takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブの決意・その5

橘は現在日本には2体の宇宙人が暗躍していると考えている。1体は地球を滅ぼそうと画策し既に実行していると思われる最強で最悪な宇宙人。
もう1体は数ヶ月前、いっときテレビで大騒ぎとなったがそれ以来鳴りを潜めた、考えられない走力跳力を白昼堂々と見せしめて忽然と消えた宇宙人。
その後者と思われる1体が今、目の前に姿を現したのだ。急いで店を出ると既に小さな黒山の人だかりができていた。昼過ぎということや、初秋でまだ残暑厳しい日中であるにも関わらずたった数分の間になぜこれ程の人々が・・・と驚き呆れた。(さ、さすが東京だな)こんな時でもまだそんなことを思いながら黒山に近付いていったが先に進めない。実力行使することにした。警察手帳を頭上に振りかざし「警察です!通してください」声を張り上げた。驚いた民衆が道を開ける。(さすが日本人、聞分け良いわい)内心ほくそ笑み前に進むとモデル並のスタイルで棒立ちしている宇宙人に辿り着いた。いつの間にか白いコットンのサマーハットを目深に被って顔を隠すようにしていた。身動きできず困っている風だ。野次馬が取り囲みパシャパシャと携帯やスマホで写真を撮っている。橘は腹が立ってきた。
「警察だww!お前たち、許可もなく人物に向けて撮影することはプライバシーの侵害となる。直ちに止めなさい!」と、大声で怒鳴った。ざわついていた民衆が一瞬にして静まり返り橘を注視した。橘は周りを睨みつけた後、女性の目前まで近づいた。(テレビでは黄色いコスチュームに身を包みスッポリキャップを被っていたから正体不明の観は否めなかったけど、まさか俺が実物を見れるとは・・・。これは夢か?)内心の高揚感を押し隠し、静かな口調で話し掛けた。「失礼。私、長野県警の橘と申します。少しの間、話しをする時間をとってもらえるかな?」警察手帳を見せて言う。橘にしては、えらく紳士的な物言いだ。女性が頷く。橘が納得顔で頷き返し周りを見渡しながら「はい!皆さん解散してください。通行の妨げになりますから。はいはい、解散www!」
民衆はすっかり熱が冷めたのか、白けた表情でひとりまたひとりと去っていき、やがて二人を残し誰も居なくなった。橘はほっと一息ついて彼女に向き直った。
「あんた、もう少し物事を考えてから行動しなきゃあ。」と、自分の事は棚に上げ橘がえらそうに言って苦笑する。「で、どこに行くつもりなの宇宙人さん?」
宇宙人と決定しての発言。違っていたら大問題になることをさらりと言った。よいも悪いもさすが橘といったところか?
暫くイブは考えた後、顔を上げ目の前のビルを見つめながら「ライトオン・ミュージックのキリキリくノ一隊に会いに」と言った。