takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブの決意・その9

ライトオン・プロは業界で今最も注目されている成長株で、歴史が浅いのにも関わらず業界のナンバー3に肉迫している。そこの社長ならば、さぞやヤリ手で生き馬の目を抜く程の精力、活力に溢れている人物を想像するが全く正反対のキャラクターだった。その無駄に肥満な体を持て余し、温和で気の小ささを周りに隠そうともしない。それどころか、それを売りにしているようなところがある。だから、初対面の者も、すぐに打ち解けフレンドリーな仲となるし、無意識にくだけた言葉遣いになってしまうのだ。それがもし営業用でプライベートでは全く逆の顔を持っているとすればこれほど恐ろしい人はいないだろう。世間的に高い地位にある者はプライドも高く尊大な態度をとるものだ。会社のトップとしての責任が、次第に意識を変え人格を備えていく。良いか悪いかは別としてだが、社長然としていれば分かりやすくて却って安心感さえ与えるものだ。だから桂はそのパターンに当て嵌まらない特異な経営者だといえた。
桂はイブに世間一般の常識的な話を笑顔で話している。ふと、自分の腕時計を見ようとして左腕にないのに気付き「あれ~?何処に置いたっけ」と辺りを見回す。イブが「金色の腕時計なら、窓際の植木鉢の横にあります。ちなみに時刻は現在13時48分28秒です」と即座に答えたので、桂と高畑は申し合わせたように小首を傾けまじまじとイブを視た。桂は外国人がよくやる両手を広げ溜息をつくポーズで、「それが本当なら、あなた千里眼を売りにデビューできる」軽く笑いながら窓際まで行った社長が驚声をあげた。「あなた、何者なんです?」イブの横で高畑の訝る声がした。


イブが出て行った後、桂と高畑が小声で話し合っている。「どう思います?彼女」と高畑。「タレントになりたいと言ったのは嘘だよ」と桂が断定する。
「なぜ嘘と気がついたのですか?」「目をみれば分かるよ。目は口ほどにものを言うとは、昔の人はよく云ったもんだ。彼女の目には訴えるものがなかったし、情熱に燃える光もなかった。つまり、タレントになりたいという意欲が感じられなかった」それに・・・と少し考えてから「彼女の容姿は完璧すぎる。まるでマネキン人形のようだった。何ごともそうだが、タレント、特にアイドルは未完成だからファンが付く。成長していく過程がファンには嬉しいんだ。だから、デビュー当時はわざと音痴に歌わせるプロダクションもある位だ。残念だが彼女は芸能界には向かないだろう。だが、あの時計の件は気になるよな。ただのハッタリが的中したか、本物か・・・。気になるところだ。ま~取りあえずは君のサブとして採用しようと思うがどうかね?」高畑は、「承知しました。私が傍で観察・・・いや、様子をみてます」「そうだな。何かあったら私に報告してくれ」そういって二人して部屋を出、橘とイブの待っている応接室に入った。