takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブの決意・その11

イブは全く不本意だと思った。突然現れた橘と云う警察官によって、どんどん目的が脇道に逸れてしまう。イブ的にはキリクノにグリーン・ビッチ製の剣を持った少女の素性を訊きたいだけなのだ。この事務所に出入りしているだろうから、玄関前付近で何気なく待っていて、彼女たちが現れたら話しかけようと思っていた。その機会が直ぐに訪れなくても全く苦にはしない。一週間でも10日でも待ち続けるつもりだった。・・・なのに、何なのだこの男は。調子が狂う。人工頭脳が危険人物として、退避するよう警告している。「イブさんは何時から入社希望ですか?うちとしては何時からでも構わないですが・・・」と、高畑。
(いつから?)イブのなかで人工頭脳が忙しく模索しだした。想定外のなりゆきでここに勤めるに至ったが、常にベストの態勢を選びたかった。
「そんなの明日からで決まりですよ!」その無遠慮で押しの強い大きな声によって、模索は中断された。「高畑さん。この子はね~、遠い片田舎から着の身着のままで、涙ながらに故郷を捨てて此処に来たんです。そりゃね、一大決心で、ですよ。もしここで採用されなかっても、帰るに帰れない。もしも夢が叶わなかったら、この東京という大都会の片隅で夜の街に身を置く覚悟で訪れたんですから。」そして、この部屋を見回しながら、「いいビルですよね~。相談なんですが・・・、どんな小さな部屋でもいいんで・・・物置でも構わないんで、暫くの間、この子を泊めてやってくれませんかね?」と、橘が言って深々と頭を下げた。
(えww?何?この人。顔色ひとつ変えず勝手に話を作って喋ってるよ、しかも淀みなくww)イブは呆れるよりむしろ感心した。だが、コンピューターの警告はより一層レベルアップする。
「あっ、そうなんですか~!」高畑が同情の目をイブに向ける。暫く何ごとかを考えている風だったが、「ちょっと待ってて下さい」と、立ち上がって社長の居る書斎に入っていった。5、6分経った後、出てきた高畑が元の席に着き、「社長と相談してきました。部屋を用意することを了承してもらえました。ただし、仮宿泊と云う条件で、部屋も狭いです。それでもいいですか?」と、イブに訊く。イブが口を開こうとする前に、「あ~、いいですいいです!ありがとうございます。良かったな~、イブちん。これで、安心して俺も地元に帰れるよ~」イブの険しい顔付きを無視して、橘が能天気に大笑いする。しかし目だけは笑っていなかった。(よし、これで釘付けする事ができた。俺もこれからは忙しくなりそうだわい)


イブをライト・オンに残して玄関から出てきた橘は、両手を大きく天に向かって伸ばし「ふああww!」っとひとつ伸びをした後、颯爽と駅に向かって歩き出した。