takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブの決意・その12

橘が家路に着いたのは午後5時前。家路といっても安アパートに、だ。実家は北海道の登別。自然に溢れてると云ったら聞こえはいいが、何もない辺鄙なド田舎だ。そんな所に嫌気が差して中学を卒業して直ぐに長野の親戚の家に下宿したのだった。両親は健在で、農業を営んでいる。時々は、橘のもとへ森で狩をした鹿や熊の肉を送ってくる。そんなときは同僚を招いて、鍋を囲み舌鼓を打つ。同僚は、結構それを楽しみにしていて待ち焦がれているようだ。橘とすれば面倒なので電話なんか殆どしないから、肉を送ってくれば親父を思い出し、同封されてる手紙で母の顔を思い出す。その時だけは、見渡す限り雪で覆われたふるさとに暫し思いを馳せるのである。
冷蔵庫から、キンキンに冷えた缶ビールと、棒状のサラミ・ソーセージを取り出し、テレビのある居間兼寝室に行く。早速テレビを点け、イブニング・ニュースを観ながらプルトップを引き、ソーセージをひと齧りしてグビグビと缶ビールを一気に半分ほど飲んで「ぷはww!」っと、いつもの様に一声を上げる。
(おお、そうだ!)とノートパソコンをテーブルに置きインターネットに接続する。彼も一応まだ若者の部類であるから、ネットぐらいはする。(車はあんなのだが^^;)「超人」と、検索欄に打ち込みYOUTUBEで映像を観る。すると様々なワンシーンが次々と繰り広げられる。それらは全て、優れた身体能力の持ち主であり、とても人間業とは思えないものばかりである。が、橘の探しているものは、それらと次元を異にするものなのだ。そしてそれは苦もなく見つかった。投稿された時期が最近であり、一大センセーションを巻き起こした騒動。しかも投稿映像もかなりの数にのぼってるからだった。
(実際に見ていない者からしてみれば、うまくできたCGとかトリックに違いないと思うだろうが、なにせ数十人の一般人からの投稿画像だ。信憑性も高いと注目したのか、閲覧した数もみな100万件を越えている)そして、橘はそれらの映像を食い入る様に観た。観ながら、彼女はなぜにキリクノに近付こうとしているのか考えた。そしておぼろげながら一本の線が頭の中に浮かんできた。その線は随分とキナ臭く、とても喜べるものではない。むしろ、恐怖を現実のものとして否応なく受け入れなければならない、最悪の事態に陥る序幕が開くのではないかと思わず身震いをした。(そうだ・・・取りあえずは、今日の事をあいつらに報告しておこう。明日にでも都合がつければ話し合う必要があるな)橘は、携帯を開けて昭雄への直デンボタンを押した。