takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブの決意・その14

9時50分、昭雄は『喫茶ドンとコイ』に着いた。自転車を店の玄関脇に停める。店主の手作りなのか、厚めの板に墨で黒々と極太の文字が躍っている看板がドアにぶら下がっている。現在駐車場には見たことのあるオンボロの軽自動車が一台と、店主の物であろうライトバンが一番店から離れた所に停めてある。
中に入ると店自体が小さいので橘の座っているテーブルはすぐに分かった。コミックを3冊積み上げて読書に集中している。近付いてカバーを見ると、『ジョジョの奇妙な冒険』だった。かなりくたびれていている本。表紙はジョセフ・ジョースターの若い頃だから古い筈だと納得して「おはようございます」と挨拶した。「おう!どちらかと云うと、こんにちわじゃないのか?」と、つまらないところで突っ込みを入れる。



「おい、この店な~・・・」橘が言いかけたので、昭雄は文句を言われるのだと顔をしかめた。「なかなか良い店じゃないか~」そういわれてホッとしたと同時に店内を見渡した。カウンター席にスツールが8席、テーブル席が6席L字型に配置してある。チェアーはソファーじゃなく家具屋に特価品で売っている様な背もたれも固い木製だ。テーブルの足も痛んでいるのか、手を載せ少し力を加えるとグラグラと揺れる。よくみると、チェアーも不揃いで高さもまちまちだ。(あの極端に低い椅子に座ったらテーブルから上は頭しか出ないんじゃないかな?あそこに橘さんを座らせたら、美鞘さんと大笑いできるだろうな~)想像して、吹き出してしまった。「なんだよ?またつまらん事考えているんじゃないだろうな~」橘がムッとした顔で昭雄を睨む。「いやいや、確かに橘さんのお好みの店っぽいな~と思いまして」にやにや顔が止まらない昭雄がへらへらと言った。そうこうしているうちに美鞘が現れた。「ちょっと遅刻?、ごめんなさい」と、素直に謝り、笑顔をつくる。
ふたりは(か、かわいい~!)と、目尻を下げる。初秋によく合う黄色と赤とオレンジ色のチェック柄の半袖ブラウスと、白いミニスカート。髪型はツインテールにして、結び目のリボンも同系統のチェックで決めている。くすぼった店が美鞘が来た途端、華やいだ。なぜか橘の頬が赤い。「いや、俺たちも今来たところさー!」と、照れ笑いしながらテンションも上がり気味だ。昭雄は、(このアイドルオタクww。今日の美鞘ちゃんを観る目がカツギトの目になってるぞ)そう思いながらも、昭雄自身デレデレと締りのない顔で美鞘を見ている。「いや~ねー!ふたりして、何をじろじろ見てるの?」それでも笑顔を崩さず昭雄の隣に座った。「おう、そうだ。何か注文しなきゃあな。皆モーニングでいいだろ?」モーニングは11時まで。コーヒー+バタートーストにゆで卵と野菜サラダが付いて来る。ふたりがコクコクと首を縦に振るのを確認して橘が「おーい、マスター!」と呼ぶ。この店にはウェイトレスはいない。流行っていないので、雇えないのかと勘ぐってしまう。「へwwい」マスターと呼ぶには、およそ似つかわしくない男性が近着いて来た。エプロンを着けていないとその辺にころがっている田舎のおっさんと見間違ってしまうような、冴えない表情の50歳半ばの白髪頭だ。「みな、モーニングで!」「コーヒーは?」「アイスで!」「わたしも」「僕も」「注文は以上で?」「はい」おっさんが一礼をして去って行く。
美鞘がお冷を一口飲み、ただの水道水だったのか一瞬変な顔をして「ところで、今日は何の話があったんですか?」と橘に向かって訊く。
いきなり、単刀直入に訊かれた橘は、「ふー」と小さく息を吐いて、腕組みをしたまま背凭れにもたれた。目を閉じ何か考えているようだ。その間、昭雄と美鞘は黙って、橘が口を開くのを待っている。「実はな・・・偶然にも出会ってしまったんだよ、宇宙人に。」ふたりはがーんと頭を打たれた時の様な、驚きの表情で橘を見る。「ほ、本当ですか?いつ、どこで?なぜ宇宙人と分かったんですか?」昭雄が矢継ぎ早に質問してきた。「ま~待て!宇宙人と云っても、俺たちが探している侵略者じゃない方のだ」「えっ?なにそれ?どういうこと?」昭雄がきょとんとした顔で橘を見た。