takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブの決意・その15

「まだ数ヶ月しか経っていないからお前たちの記憶に残っていると思うが黄色のダイバー・スーツのようなもの着た女性が、人並み外れた脚力、跳力を駆使して国道を走り抜け、それを目の当たりに見た市民をパニック状態にした。興味を持ったメディアが目撃者の証言をもとに辿っていくと、角川市の野花公園から双葉神社まで約21・1キロ。それを往復したらしい。目撃者の証言だけで云うならオリンピックの記録保持者の半分ほどの時間で走破したらしい。これって冗談だろ?って皆思ったよな~。もし本当なら、そいつは間違いなく人間じゃない。だから、いっとき宇宙人が日本にいると大騒ぎした」美鞘が目を橘から外し、彼の背後を見たので話を切った。マスターが大きな盆に3人分のモーニング・サービスをのせてこちらに歩いてくる。「お待たせしましたー」「あっ、どうも」ちょっと手が震えてしまうのか、ガラスのコップからコーヒーがこぼれそうになる。50代ならば加齢による震戦にはまだ早い。動作を見つめるのは気の毒と思い皆余所見をして配膳の終わるのを待った。「どうぞ、ごゆっくり」の言葉に「ありがとう」と返し、取り敢えずはと各自飲み食いに気持ちを切り替えた。


トーストのパンは大きく口を開かなければ食べられない程厚く外側は適度にパリパリで中はふわふわのもっちりだ。おそらく自家製のパンだろう。美味しいと皆、思った。サラダの野菜もシャキっとした歯応えがあり朝摘みしたんじゃないかと思った。そういえば、店の裏側はちょっとした畑になっていた気がしたし、鶏の鳴き声もしてたような気がする。コーヒーはアイスを頼んだので一般のサテン並だが、この仕事ぶりなら良いコーヒーを淹れてくれるに違いないと3人共同じような事を考えて口に運んでいる。「その女性なら僕もいっとき興味が湧いて色々観聴きしました。でも、たった1時間足らずの出来事で、その後はぷっつりと消息を絶った様で、メディアは全く正体がつかめないまま想像の域を脱せず日が過ぎていきました。そして一週間もするとそんなこと無かったかのように話題にも挙がらなくなった。今の世の中、そういうもんですよ」と昭雄が言い、ストローでコーヒーをチュ~と吸った。
「私も同様ね。こういうことになると一般人はただ受ける側でしかないから、マスコミに振り回されて終わり。個人ではとても実態なんか突き止められないから流れに身を任す以外ないからね~。今日、橘さんに言われて『ああ、そういえば』って感じるくらい過去の出来事になっちゃった。宇宙征服者との関連も薄いだろうと私自身、思ってたからね~」橘は、フォークで野菜を刺しては口に運びうんうんと頷きながらふたりの話を聞いていたが「実は俺もお前たちと殆ど変わらない、って感じだ。ただ職業柄、頭の片隅に意識を植え付けていた。お前たちからその剣の由来について聞いてからは特にな。俺としても両者に関連はない、もしくは薄いだろうと思っていたんだが・・・。先日キリクノのマネージャー、高畑さんに会いに東京まで出かけた。そこでとても人間業とは思えない運動能力を持った女性を見つけた。例の彼女だとすぐに思ったよ。まさか俺の目の前に現れるとは思わなかった。だが、それはただの偶然ではなかったんだよ」「えっ?偶然じゃなかったの?まさか・・・橘さんに会いに現れたってオチじゃないでしょうねww」昭雄はまたまたwwと云うようにあからさまに顔を顰めて橘を見る。「そうだ、会いに来たんだよ。残念ながらその相手は俺じゃないがな」ふたりは怪訝そうに橘を見る。「キリクノに会いに来た。ファンだと言ってな。だが、カツギトの俺が見て彼女はファンのタイプとはとても思えん。嘘をついている」橘はそこで話を切ってアイスコーヒーをガブガブと飲み干し,氷をがりがりと噛み砕いた。
いきなり『カツギト』なる名詞・・・代名詞?が出てきて首を傾げる読者もいるでしょうが、モモクロの『モノノフ』と同意語、熱烈なるファンの事と理解して下さい^^;