takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブの決意・その16

昭雄と美鞘は同じように小首を傾げ眉根の中央に皺を寄せた。橘は話を切り、正面からふたりの表情を面白そうに見ている。
先に、もぞもぞとぎこちなく肩を揺らし口を開いたのは、やはり昭雄であった。言われた事を一旦プールして、自分なりの考察をはしょるタイプだ。
彼の場合、答える相手が居るのなら訊けばいい。とりあえず情報を相手から引き出し、掻き集めてから咀嚼し自分なりの答えを出そうとするタイプ。一方、美鞘は、話の内容と相手の様子(仕草や表情、口調等)を、さり気なく観察し、裏側を読み、先を読む。実体験や幾多の経験に培われた年配者が身につけている応対術を弱冠16歳の少女が無意識のうちに会得している。おそらくは優れた武道家を祖先に持ち、そのDNAによって先天的に身についているものと思われる。どちらが良い悪いではないが、昭雄は広く浅く考え美鞘は広くはないが深い思考をする。
ちなみに詐欺にあうとすれば間違いなく昭雄の方だろう。若いから仕方がないのかのしれない。深い読みには経験が必要なのだから。わたくしごとだが数ヶ月も前、久しぶりに来訪した相手と会談した。とってつけた様な笑顔と、上っ面な美辞麗句。年配者のわたしに、その裏側が読めないわけがない。
相手はうまく嵌められたと内心思って帰ったかも知れないが、そう思わせて済ませることも出来るようになったのも、年の功というものだ。


「それってどういうことなんですか?ファンじゃないのに偽って会いに来るなんて。あっ!ひょっとしてwwライバルの『ひょっとこ倶楽部』が送り込んだスナイパーかww?!」本気とも冗談ともとれる口調で昭雄が声を荒げる。「バカか?お前は~。曲がりなりにも俺は警察官だぞ。そんな不審者ならすぐに逮捕してるわい」あきれた顔で橘が言い、ふんと鼻で笑った。「昭雄君、わたしもその考えは当たらずとも遠からずって思うわ」美鞘まで突拍子な事を言うので、椅子に踏ん反りかえっていた橘がえっ?と驚いて身を起した。
「その人は多分テレビに映った私を観たのよ。キリクノのメンバーだと思ったに違いない。目的は分からないけど私に逢いに行ったと思うわ」真剣な眼をして交互にふたりの顔を見る。
「仮に宇宙人だとすれば、敵だってことも考えられる。ちょっと面倒な事になったわね」横に置いてある深紅の鞘袋を見る。
「美鞘ちゃん。俺も実は美鞘ちゃんに逢いに行ったんだと考えた。だが、実際彼女を見、話した俺だから言えるんだが、彼女は敵ではないような気がする。まっ、あくまでも俺の勘なんだがな。だが俺の勘は、なかなかのもんだぜ?」そう言って橘がにやりと笑う。
「そうなの?う~ん、逢った橘さんがそういうなら・・・一度会ってみたいわね」「じゃあさ~近いうちに皆でライト・オンに行って見ようよ。なんか、楽しみができたな~」昭雄が能天気に浮かれ出した。それを見て橘と美鞘が、思わず苦笑した。