takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブの決意・その22

「どうぞ、みてもらっても構いません」美鞘は無造作に剣を差し出した。イブが一歩前に出る。手の平を剣の下に持っていき、美鞘が握っている手を離せば落下し、必然的にイブがキャッチする構図だ。美鞘が手の指を全部広げた。剣がイブに渡った瞬間「あっ!」と言う声とともにイブに体勢が崩れ、そのまま床に激突して『ガゴwwwンww』と大音響がフロア中に響き渡った。そこにいる皆、全員が目を丸くして、声も上げられずに口を半開きにしている。
「あ~、すみません。重かったですか?」美鞘はすぐにイブの横にしゃがみ両肩を支えるようにして立たせた。その時イブの耳元で何かを囁き、それにイブが応えたようだが、昭雄たちはそれに気がつかなかった。マネージャーの高畑が、剣を拾い上げようと近寄ってきたが、一瞬早く美鞘が取り上げ「あっ!どうも」と高畑に頭を下げた。高畑はイブを見ながら「何?今の~。悪ふざけしたの?あなたって時折信じられない事するんだな~。美鞘ちゃんの大切にしている物を壊したら大変なことになるんだよ~!美鞘ちゃんによく謝って!美鞘ちゃん、私からも謝ります、本当にごめんなさい。えらい音したから壊れてないだろうね~?」眉毛を八の字にして心配そうに美鞘が持っている剣を見ている。イブが俯いたまま顔を上げようとせず「ごめんなさい、すみませんでした」と、頭を下げる。
「いや、その剣はちょっとやそっとでは壊れませんよ。気にしないでいいからね、イブちん!」すかさず橘がイブに声を掛けた。何となく気まずい空気が漂う。
「おっ!」と、高畑が腕時計を見て、「そうだ、未無来製薬の工場見学の打ち合わせを、早速しましょう。私も、結構忙しい身でね~、時間が・・・。急かすようで申し訳ないです」「あっ、そうですね。じゃあ早速!」そういって、高畑と橘が肩を並べて応接室の方に、歩き出した。その後をイブがついて行く。
後には美鞘と昭雄が残った。昭雄が、美鞘に囁くように「予想外の結果だったね~。イブさんは、あの、お騒がせ宇宙人じゃなかったのかな~?」首を傾げながら、ゆっくり歩く。昭雄に合わせて歩きながら「そうでもないみたいよ」と美鞘が、したり顔で言う。「えっ?どういうこと?剣を持つことできなかったじゃん」と聞き返す。「あれは演技よ。彼女は持てていた筈よ。わざと落として見せたのよ。私はこの剣を知り尽くしているから、普通の人が持てばどういうふうになるのか想像できるの。あの時、間違いなく違和感を感じたわ。だけど、彼女なぜか、あの剣の特性を知っているのよね。だからご丁寧に床にコブシを叩きつけて大音響まで出した。助け上げるふりをして手を見たけど傷ひとつついてなかった。そして私の仮説が正しければ、彼女は生物じゃなく、無機質の・・・機械。ロボットのような気がする。だって宇宙人も生き物じゃん。この剣は生きている物全てに反応するはずだから・・・例えばオーラのようなものにね」歩きながら、美鞘は考え込んみつつ、思っていることを口にする。「えっ?ロボットなの?あの人が?ほんとかな~?」信じられないという顔付きで、横にいる美鞘を繁々と視る。「だから、彼女にささやいたの。あなた、人間じゃないでしょ?宇宙人でもない。機械ねって。そしたら、小さく微笑んだのよ。そして、よく判ったわねって。あれは嘘をついている顔じゃなかったと私は思っている」「なんか、ますます解らなくなってきたな~。でもさー、なんでわざわざ演技をする必要があったんだろう?僕たちはもうイブさんのことを地球人じゃないって分かっているのにさ~。僕の脳は今、完全にパニクッている」頭を左右に振りながら昭雄は考えるのを諦めてイブの後姿を見つめて歩いている。