takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

ギガ製造工場・その2

昭雄が学校から帰ると、それを待っていたかの様に電話が掛かってきた。受話器を取り「もしもし・・・」と言うが早いか、「おう!昭雄か!俺だ、俺だ!」馴染の声が耳に響いて痛い。橘は地声が大きいうえに話し方が荒っぽい。つい、受話器を耳から数センチ離した。「今日の昼な、高畑マネージャーから携帯に掛かってきたぞー!今週の土曜日午前10時にアポが取れたってさ」「そうなんですか?10時、はい」確認するように昭雄が復唱する。「だけど、向こうは撮影禁止ならってことらしい。だから、他の・・・カメラマンや音声スタッフなんかも同行しないらしい。高畑さんとしては、メリットが少ないからかなり粘ったんだが、向こうは巌として聞き入れてくれなかったと。その代り次回のCMも契約更新し、引き続き採用すると社長が約束してくれたと、上機嫌だった」「だからな、土曜日絶対に開けておけよ。実鞘ちゃんにも、そこのところきっちり言っておくんだぞ」「はい、わかりました」昭雄は素直に応える。「それでな、工場に10時っていうことは、逆算するとお前んちを朝の4時には出なけりゃならん。どうだ?きついだろう?金曜日の夕方出発してライトオンに泊めてもらう方法もあるが、どうだ?その場合、高畑さんは素泊まりだけなら何とかなるとは言っていた。そこらへん、美鞘ちゃんと相談して、なるべく早く俺に知らせてくれ。いや~、俺としては夜明け前からの愛車で長距離ドライブもいいかな?なんて思ってるんだけどな。あはは~!」橘は一気に捲くし立てるように喋った。昭雄は、最後の『愛車での長距離ドライブ』って言葉を聴いて背筋が凍った。「あ、あの。金曜日の夕方の交通手段は、どうするんですか?」「えっ?う~ん、俺が最寄り駅まで乗せて行って、後は電車かな?電車賃は各自持ちだからな!」各自持ちっていうところを特に強調したように思えて昭雄は苦笑した。「それは、もちろん分かってます。じゃあ、金曜の夕方で決まりです」「おい!何言ってんだ?美鞘ちゃんにも相談しないでさー」「いえ!相談なんか必要ないです。高畑さんに、よろしく言っておいて下さい。じゃあ、僕、夕飯の用意があるので、これで失礼します」橘が何か喚いていたが、無視して受話器をフックに収めた。(いよいよ怪物とのご対面か~)思わずブルブルっと身震いした。武者震いなのかと思ったが、窓ガラスに写った自分の青ざめた顔を観て、絶対に違うと思った。