takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

ギガ製造工場・その7

都内では通勤時間帯で少しの区間、渋滞に巻き込まれたが、そんなことはすべて織り込み済だったから、高畑の運転は落ち着いたものだった。そのうちに都心から山間部に向かう程に交通量は少なくなってきて、快適に走行することができた。
出発して1時間ほど経った頃、目的の工場が見えて来た。広大な敷地に、真新しい3階建ての鉄筋コンクリート造りの立派な工場だ。周りは年数が相当経っている田舎の民家が数軒建っている。猫の額ほどの田畑がところどころにあるだけで、殆ど荒れ地になっていた。
この辺りの地域では目も当てられないくらい過疎化が進んでいるのが見て取れた。それでも需要があるのか一軒だけコンビニエンスストアがあったので、車中で全員感動の声を上げた。
一旦工場の正面玄関に入るゲート前まで行き徐行して外郭を観た後、コンビニに引き返した。
10時に予約を取ってある。10分前に行けば丁度良い。あまり早く入場すれば、相手方が迷惑することもあるのだ。「コンビニで半時間の休憩を取ろう。トイレに行くもよし、出たくなければ車内で居眠りししても良いしな」高畑は、誰に言うでもなしに大きな声を出した。
高畑は、運転中助手席に座っているイブの様子が気になっていた。イブは、会社で勤務中でも口数は少ない。必要なこと以外、しゃべらないと言っても過言ではない。だが、話しかければ相応の返答はしてくるのだが、今日は話しかけても上の空で返事さえもしなかった。
「イブ君、大丈夫か?」駐車場に車を停め、ぱらぱらとキリクノのメンバーが降りだしたのを横目で見ながら高畑が言った。「えっ?わかりますか?・・・ちょっと、頭痛がするんです。車に酔ったのかしら?」イブが高畑の目をみながら、辛そうな表情をつくった。
「やはりか~、どうも様子が変だと思ったよ。コンビニで頭痛薬買ってきてあげるから待ってなさい」そう言うなり高畑は車を降りて行った。
ため息をひとつ吐きながら(私も嘘をつけるようになったのね。昨日鏡を見て、顔の表情を変える練習の成果も出たみたいだし。高畑マネージャーには悪いけど、皆と一緒にあいつの前には出られないのよ。どんなに変装しても、あいつは見破るに違いない。私が地球人の側に付いていると今、あいつに知られる事は良くないとコンピューターも警告しているし、ね)
危険を承知してイブはここまで来た。高畑が同行するように指示してきた事も理由の一つではあるが、もしも美鞘が危機に遭遇した場合、なんとしても助けなければならないと思ったからだ。グリーンビッチ製の剣は彼女しか扱えない。あの剣がなけりゃあいつを倒す手立てが無くなるのだ。イブの力では、とてもグレートデストロイに太刀打ちできないと分かっている。
美鞘こそが、この星を救えるたった一つの希望なのだ。美鞘だけは失くしてはならないとの思いが、イブをここまで連れて来たのだった。