takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

ギガ製造工場・その9

コンビニを出て工場に向かった一行は、正門を抜けて警備室前で停まった。高畑だけが降り、窓口で手続きを済ませて来た。駐車場に向かうと未無来製薬のロゴが入った社用車が3台停まっており、警備員に預かった駐車カードの番号のスペースに停めた。既に社員がひとり出迎えに来ていた。応接室に案内され、キリクノのメンバーと高畑は革張りのソファーに座りかしこまっている。
4人が裕に座れるソファーだが、そこに5人となると窮屈だ。誰かひとり外せばいいのだが、誰一人立とうとしないのが昭雄には可笑しく、心の中で吹き出していた。
橘等3人は、所在無げに調度品や壁に掛かっている絵画などを見渡していたが、「わっ!」という昭雄の声に近づいてみると1メートル以上もある一刀彫が飾ってある。木の幹に大蛇が纏わり付いてこちらに向かい鎌首を擡げている構図だ。今にも襲い掛かってきそうな迫力がある。「ヘビだよ・・・やっぱり」昭雄のつぶやきが聞こえたのか聴こえていないのか、橘と美鞘は無言でそれを見ていた。
と、ノックする音が聞こえてドアが開かれた。座っていたメンバーが、はじかれた様に立ち上がった。スーツを着た男性が二人、足早に部屋に入って来た。
「やあ、こんな辺鄙な処までよくいらっしゃいました~」社長の未無来と総務の中村が、満面の笑みで高畑と握手をした。高畑は恐縮しながら「いえいえ、すごく立派な工場なので一同驚いています。かなり遠くからでも、はっきり分かりましたよ」と、笑顔で答えている。
キリクノのメンバーたちも、とっておきの笑顔をつくり、場が華やいだ。
昭雄は(さすが彼女らは芸能人。魅せる能力では普通の人間の比じゃないな)と感心した。
社長は「人気絶頂のキリキリくノ一隊にコマーシャルしてもらっているんですからね~、依頼元がオンボロ工場だと様にならないでしょう。この辺は田舎なので地価は低いんですが、それでもかなり無理をして建てたんです。ですがね、キリクノさんのお陰もあって、ものすごい勢いで売れてます。
世界中にミラクルドリンクと忍者ガール・キリクノはセットとなって広がり続けているんですよ」
社長はそこまで一気にしゃべり、そこで皆が立っているのに気づき、「おー、失礼しました。嬉しさのあまり、つい話し込んでしまいました。こちらは、総務の中村です」中村が、会釈をする。「どうぞ、お座りになって下さい。中村君、飲み物の用意を頼むよ。今日は事務員が休んでいて・・・行き届かなくて申し訳ない」苦笑しながら社長は言って、高畑らの後ろに立っている3人を見た。「えーと、そちらが例の高校の新聞部の方々ですか?」と高畑に問う。
「そうです」ううん!とひとつ咳払いをして「・・・顧問の橘先生と・・・生徒たちです」
橘が「顧問の橘です。よろしくお願いします!」と、大きな声で言い、3人で頭を下げた。
「こちらこそよろしく。ところで・・・そこのお嬢さんには、どこかでお会いしたような気がするんですが・・・」と美鞘の方をじっと見ている。早くも気の抜けない状況になりつつあった。