takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

ギガ製造工場・その13

未無来社長の後に付いて、一行はぞろぞろと歩いて行く。オートメーション化された真新しい近代的な設備が、天井の照明を反射して眩しい。
進行方向に隙間なく茶色の瓶が並んで移動していく様は、感動すら覚える。要所要所で停止し金属製のノズルが下りて適量の液体を注入していく。
それを規則正しく繰り返している。スクリューキャップで密閉された後は、瓶にお馴染みのラベルが張られ箱詰めされ出荷口へと運ばれる。
工程としては単純なものだが、製造所の面積は相当なものでガラス越しに覗いて歩く距離は100メートル以上ありそうだった。
高畑が、「すごい設備ですね~、驚きました~!」と、ため息交じりに社長に声を掛けると「そうですか?ははっ。でも、この中で働いている従業員は10人足らずで稼働しています。最小限の人力で、最大限に生産効率を上げる為に造られた、わが社自慢の設備なんですよ」嬉しそうに未無来が笑いながら応えた。誰も注入している液のことは質問しなかった。質問して、答えられたところでラベルに添付されている内容表示と同じの、糖類やビタミンの種類を並べられるだけだと分かっているからであった。だが最終工程を観終わって引き上げる寸前に、「未無来社長さん」と後ろの方から、男性の声がした。
「はい」と社長が振り向くと、気の弱そうな学生服の青年がおどおどした素振りで手を上げている。前方を歩いていた高畑やキリクノ達も振り返り、怪訝そうな表情で昭雄を見ている。「あ、あの~」と消え入りそうな声を発した途端、『ドンッ』と後ろから美鞘に押され、よろけるように社長の目の前まで歩み出た。
「君は・・・新聞部の、確か・・・」さすがの社長も昭雄の名前までは覚えてないらしい。「僕、新聞部部長の佐藤昭雄と言います。前から思っていた事がありますんですけど・・・あるのですが、それを質問させてもらっていいですか?」どぎまぎして言った。なんだろう?というように首を傾げながら、「ああ、いいですよ。ただし、キリクノの中で誰が一番のお気に入り?なんていうのは勘弁して下さいよ、ははは~」社長の笑いにつられて高畑やキリクノも声を上げて笑った。周りに笑いが起きたことで昭雄の緊張も和らいだ。「もちろん、それも訊きたかったんですが・・・、社長は以前テレビの取材に答えられていた時、アマゾンの奥地で捕らえた大蛇のエキスが注入されているとか言っているのを聴きました。みたところ、その大蛇が見当たらないのですが・・・」そういって、社長の口元にレコーダーを差し出した。一瞬未無来社長の瞳に邪悪な光が宿ったのを、橘と美鞘は見逃さなかった。
「君・・・佐藤君、面白い質問してくるね~。確かに大蛇のエキスを注入していると言いました。しかし、考えてみたまえ。こんな近代的設備の一角に、大蛇を吊るして、『ポタポタ』と瓶に垂らしているわけないだろう?あれは、わが社の機密事項だからはぐらかしたまで。だが、確かにあるんだよ謎のエキスがね!
そのエキスは私以外、何人たりとも近づけない場所にある」真顔で社長が答えた。「なっ、なに!」歯を食いしばり、昭雄が睨みつける。と、それを見て社長が吹き出した。「あ~ははは」腹を抱えて笑っている。今度ばかりは、高畑らは笑っていなかった。「クククッ、冗談だよ。・・・あの後、厚労省が分析した結果ビタミンの一種であることが解明された。研究員の単純ミスだったんだ」笑顔を消し、質問を打ち切る様に社長がそう言って、すたすたと歩を進めた。