takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

ギガ製造工場・その11

美鞘たちが応接室で未無来社長と会話をしている頃、イブはワゴン車の中にいた。まさか工場内に入らず、車中に残っているなどと、会社側は思わないだろう。
いかに警備員でも大勢乗っている来訪者の一人ひとりをチェックすることはできない筈だ。イブは高畑に薬の効果が現れ、頭痛が治まるまで車内で休んでいたいと願い出た。高畑は困り果てた表情でイブをみて、思案した。(確かにこんな状態のイブを無理やり連れて行って、倒れたりしたら先方に迷惑が掛かる。かといって事情を話し途中から参加させるのも先方に気がかりの原をつくってしまいかねないし・・・)皆を先に降ろしてイブと二人だけとなった機に難しい顔をして高畑が話しかけた。
「どうだろうか?イブ君。せっかくここまで来てもらって何なんだが・・・、そんな状態で場内を気遣いしながら歩き回るのも辛いだろうし・・・。このまま、私たちが返ってくるまで座席で休んでいてくれることはできないだろうか?」ささやくように耳元で高畑が言う。「幸いにも先方にはキリクノと高校生が見学に来場したいと伝えてあるだけだから、君がいなくても問題はないはずなんだ・・・」そう言って納得してもらえるか目で問いかけている。イブは仮病がばれない様に目を伏せて消え入るような声で「申し訳ございません、こんな時に。なんか目眩までしてきて・・・。私の事は気にしないで、要件を無事に済ませて来て下さい。・・・本当に、ごめんなさい。ゴホゴホ」 咳をした後(あっ、余分な演出してしまった)と、顔を顰めたが「だ、大丈夫か?病院に行った方がいいのかなあ」と気を揉んでいる。「大丈夫です、皆さんを待たせると悪いですから・・・早く、行って下さい」と、急かした。
これ以上話しているとボロが出そうだった。玄関口では橘ら3人がひそひそと小声で話している。「ロボットなのに車酔いなんて、人に近づき過ぎですよね」と佐藤昭雄。「あほか!仮病に決まっているじゃねえか。彼女には何か魂胆があって、車に残りたいのさ」「えっ?そうなんですか?車にいるぐらいなら付いてこなけりゃよかったのに」昭雄が不思議そうな顔で、ワゴンの方を見ている。「私の想像だけど、社長に顔を見られたくないんだと思う。だけど、皆の事が心配でついてきた・・・ってとこかしら?」ワゴンから高畑が降りてきて「待たせました。イブ君は車の中で休ませておきます。じゃあ、行きましょうか?」高畑を先頭に、一行は玄関の自動ドアを開け、中に入って行った。「ふ~、行ったか~!」イブはゆっくりと起き上がって、右側の髪を掻き上げた。そこには存在している筈の耳がなかった。高畑がコンビニに薬を買いに行っている隙に、彼の愛用のセカンドバックの底に右耳を外して紛れ込ませたのだ。集中すると脳内に右耳が捉えた音声がクリアーに入って来た。(博士もなかなか気の利いた性能を私に施したものね~)と、ニヤリと笑った。