takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

ギガ製造工場・その16

鉄製のドアを少し開け中の様子を窺った。人間であれば感の鋭い者なら、人や動物の気配を察する者もいるだろうが、イブはロボットだ。視得た物、聴いたものだけが人工頭脳の機能の対象となる。そういう点では、機械より人間の方が優れていると云える。ただ、心臓部で常にエネルギーを供給している地球外物体の『赤い石』は生命体なのでイブの身に危険が迫るようなことがあれば、石から人工頭脳に働きかけることも考えられる。人で云う精神的な部分を石が担っているといえるのだ。だから今回の行動も『赤い石』がイブを動かしているといって間違いはない。美鞘は、「私たちを守るためについてきた」と言っていた。勿論それもあるが、もう1つ目的があった。もしグレート・デストロイに隙が生じたら、この機会に彼の計画を阻止すべく、致命的な打撃を与えたい。彼自身を壊滅することは不可能としても、ギガの生産さえ阻止できれば、この星での野望を断念するかもしれないと、一縷の望みに賭けてみようと思ったのだ。そして、高畑のバックに忍び込ませた右耳からの会話によって、この工場の敷地内に機密にしている物質か溶液が保存されている可能性があると判断したのだった。(多分この建屋だろう)誰一人いない。素早く入り込み、すぐにドアを閉める。外観より狭いと『石』は感じた。中に機器類は見当たらない。工事にでも使うのかセメントの袋が山積みされていて、スコップや、運搬用の一輪車が数台あちらこちらに置いてあるだけ。見渡しても、がらんどう状態だ。(私としたことが見込みちがいだったか・・・)こんなところで時間を潰しているわけにいかない。諦めてワゴンに戻ろうとノブに手を掛けた瞬間、妙な違和感を『石』が感じた。もう一度振り返り見渡した。何かが引っかかる。イブの視界に微妙なズレが起きている。部屋の一部の遠近がブレて歪んだように見える。人工頭脳が、レンズを修正しようと試みるもうまくいかない。歪んだ空間に手を差し出してみると、何かに触れた。(空中に見えない何かがある)それを掴んで力いっぱい引っ張った。するとその部分が捩れてピシピシ音を立てた。イブはレベル2にして尚も引っ張ると、それに耐えられなくなったように、偽りの空間が剥がれてきた。いままで何も存在していなかった空間に、いきなり巨大な容器が圧倒的な威圧感でイブの目に飛び込んできた。