takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

ギガ製造工場・その17

イブは全体に星が散りばめてあるような巨大なタンクを見上げていた。移動しながら観察すると、光の屈折で作用するのか、本体の色が滑らかに変化していく。だから、この金属の持つ本来の色は分からない。もしかすると、この虹色が本来の地色なのかもしれないとイブは思った。
多分だがこの中に地球人を滅ぼす素となる物が入っていると思った。イブはライトオン・ミュージックに来てから、彼女なりに情報を収集して、グレート・デストロイの手口を探っていたのだった。そして辿り着いたのが『ミラクルドリンク・ギガ』だった。人工頭脳の予測によると、ギガが全世界の人間に供給されるのは、後数ヶ月と出た。その条件が満たされた時グレート・デストロイは動き出すに違いない。その日がこの星の最期となるのか、人類の生存の最後となるのか・・・。いずれにしても、この星は暗闇に包まれるだろう。イブは、ロボットらしくなくただ呆然とそんな事を考え、立ち尽くしていたが、はっと気を持ち直した。(このタンクを今すぐ破壊しなければ!)頑丈な台に支えられ3メートル程上部に設置してある。床からの撃破は無理だ。イブはレベル2にシフトし軽くジャンプした。そして目の前にタンクを捉え、腰を十分に捻り右足を腰の回転に合わせて撓らせた。「ブオン」と風を切る音と共に、タンクへと右足が減り込んだ。地球上の金属ならどんな頑強にできていても、これで拉げるか破裂するだろう。だが、右足もろとも『グニャリ』と呑み込まれた。そして、反動がつき弾き飛ばされてしまった。(まるで、ゴムでできているようだわ)力を吸収したあと、その力を利用して復元する。もう一度ジャンプして、今度は強烈なストレートを見舞ったが、全く手応えなく弾き飛ばされた。(だめだ、打撃は効かない・・・)片膝を床に着け、悔しそうに見上げる。(このタンクを壊せるとしたら、あれしかない。だが、あれを私は使えない)


さっきから、右耳からざわついた声が聴こえてきている。
「さあ、そろそろお暇しようか?」高畑が皆に声を掛けた。高級なショートケーキを、香り豊かなコーヒーで堪能した連中は、「は~い」と言って立ち上がった。総務の中村が、にこにこ笑いながら「本日は忙しいところご足労頂きまして・・・」と挨拶すると、「いやいや、こちらこそご迷惑掛けてしまって」と、高畑がペコペコ頭を米つきバッタのように下げている。中村が申し訳なさそうに、「社長は今、手が離せそうにないとのことで、見送りができないんです。申し訳ございません。」と、また頭を下げた。「いえいえ、どうぞお構いなく。幼児じゃないんだから、ちゃんと帰れますから。」と、高畑は破顔した。
応接室を出たところで、美鞘が「済みません、ちょっとおトイレ借りれますか?」と中村に聞いた。「あっ、はい。・・・じゃあ、私もそちらの方に行くので、案内します。」高畑が「じゃあ、私たちはここでお暇します。どうもありがとうございました。」と頭を下げ「美鞘ちゃん、車で待ってるからね。」と言って手を上げ背を向けた。美鞘はここまできて何一つ収穫らしきものがなかったことが悔しかったが、もうどうすることもできなかった。中村が見張っていなかったら、部屋を抜け出して怪しい場所を探りたかったんだが・・・。(今日は数少ない機会を逃してしまったな・・・。しかたないか~)そう思いつつ、トイレから通路に出ると、通路の突き当りの薄暗い場所に何かが蠢いているのが見えた。(なに?なに、あれ?)見たこともない・・・まるでネズミの尻尾を巨大化したような形状のモノが『バチバチ』と床を打ちつけている。(あいつだわ!あいつがいる!)身震いがして冷や汗が全身に流れた。おそらく蒼白な顔色をしているに違いない。(近寄ってはならない)と、心の声がした。だが、それに反して足は一歩一歩と、悍ましいモノに近づいていった。