takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

美鞘、最大のピンチ・その1

(まずい、皆が車に戻りかけてる)急いでワゴンまで戻り、着替えなければ正体がばれる。衣服は車の中に置いてきた。人工頭脳が目まぐるしく計算し出した。元のコースを辿ると、レベル2で駆けても間に合わないし危険だ。戻らず突き進む方に賭けようと思い、そっとドアを開け屋外に出た。辺りを警戒しながら見渡したが人影はないようだ。イブは30メートル程先にある工場の角まで一気に駆けた。角に着くと顔を半分出し様子を窺った。目の先に見えたのは小広い敷地で駐車場もそこにあった。10メートル程先にライトオン・ミュージックのワゴン車が見える。イブはほっとして一歩踏み出そうとした足を引っ込めた。よくみるとすぐ目の前の離れに立っている、モルタルの簡易な建物は警備員詰所だ。こんな格好で見つかれば、呼び止められるに違いない。(まずいな~)だが時間がもうない。(また、あの方法を使うか・・・)詰所の屋根まで一気に飛び音もなく着地した。屋根は波型に加工された厚い金属板でできていて丈夫そうだ。警備員のいる辺りまで歩いて行き、力を込て拳を打ちおろした。『ゴゴwwwン!』周りが静かなだけにかなり大きな音が響き渡った。中にいる者は、飛び上がる程驚いているに違いない。多分、床に伏せて固まっているだろう。イブは素早く屋根から降りて、詰所の方を見向きもせず車に向かって疾走した。(もう玄関先まで来ている)ドアガラスに複数の人影が見えて、今にも自動ドアが開きそうだ。イブがサイドドアを開くと同時に玄関の自動ドアが開き、連中がドヤドヤと出て来た。車まで5メートル程。「イブさん、回復したのかな~?あのケーキ食べられなかったのは残念だったなあ」などと高畑がキリクノのメンバーと話しながら車に乗り込んできた。イブは既に着替え終えて眠っている振りをしていたが、今目覚めたというように目を擦りながら座り直した。皆が口々に体の具合はどうかと声を掛けてくれるので、それが嬉しい様な後ろめたい様な。だが、見渡すと美鞘の姿がみえない。気にかかり、橘に「美鞘さんがみえないようですけど・・・」と訊くと、「ああ、トイレに行ってる」と答えた。(トイレ・・・)イブのなかの『赤い石』が人工頭脳に警戒信号を送った。「すみません、私もトイレ行きたくなりました。」そういうが早いか、「おっ、おい!」と橘の掛ける声に耳も貸さず、車から飛び出した。「ここであの子をひとりにするなんて・・・、ライオンの檻の中にうさぎを放すようなものよ。なにもなければいいけど」常備灯が所どころ灯っている長い通路を小走りに進んで行く。トイレの案内板の先にトイレがあった。急いで女子トイレに入ったが、美鞘はいなかった。(これは、まずいことになったわ。手遅れにならなきゃいいけど)片耳はまだ高畑のバッグの中。残っている左耳の聴力を最大限にして、目を閉じた。