takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

美鞘、最大のピンチ・その2

イブは聴力を最大限にして、女子トイレの洗面台の前で片膝をついている。幸いにも工場内は製造エリア以外、水を打ったように静かだ。
微かにヒタリ、ヒタリと靴音が聴こえる。だが、その靴音が美鞘のものだとの確証はない。玄関の陰で素早く組み立てたイーグル・アイを再び使った。
このトイレに辿り着くのにも使ったのだ。万が一にも社員に見つかれば、来訪者メンバー以外の見慣れない人物として咎められるかもしれないと思ったからだ。それに、できるなら今はグレート・デストロイに見られたくない。『スーパーあけぼし』で、彼の計画の邪魔をするなと釘を刺されていた。最もイブは彼に従う気などハナからなかったが、敵視されて真っ先に攻撃を受けることになれば、勝てる公算は限りなく低いと考えたから逆らわなかった。
彼は無言で佇むイブに意思が通じたと思い込み、その場を去った。彼が思い込むのは勝手で私は私の考えで動くつもりなのだが、今はまだ敵側にいることを知られたくなかった。油断させておきたい。そういうことで、この工場内で彼に見つかりたくないのだ。イブは靴音のする方にイーグル・アイを飛ばした。
イーグル・アイがまだ通路を飛んでいるところで、扉を開け閉めするような金属音が聴こえて来た。そしてイーグル・アイがその音元に辿り着いた時には,
人影はなかった。(あの扉から、誰かが出て行った。美鞘さんである可能性が大きい)映像には通路も階段も人の姿はなかった。イブは、駆けだした。


美鞘は箱型の機械の陰に隠れながら、怪物が姿を現すのを息を殺して待っていた。この場所から出て自ら探す方が手っ取り早いのだが、危険が大きすぎる。周りを見渡すと、学校のフェンスと違い高さが腰のあたりしかない。金属の太いパイプが複雑に渡っていて、普通に歩くことは難しいようだ。
(こんなところで追われたら、逃げ切れない)さすがの美鞘も不安の表情を浮かべた。その時、『クックックッ・・』と気味の悪い声が背後から聞こえて来た。
背筋がぞくっとして、恐る恐る、その声の方に顔を向けると、異様なものが立っていた。一瞬、誰かがぬいぐるみでも被っているのかなと、小首を傾げた。
その姿は極彩色に彩られ、まるでアニメか特撮ヒーロー物の極悪怪物そのものだった。ヘビの化身というより、トカゲに近いと絶体絶命な事態にもそんなことを漠然と思って、ただ固まって見ていた。