takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

美鞘、最大のピンチ・その3

美鞘は怪物を見た瞬間、完全に戦意を失った。圧倒され、呑み込まれた。おそらく剣を手にしていたとしても、怯えて体が動かなかっただろう。
体中、ギラギラと異様な色彩。青を主体に紫と赤と緑の縞模様。まるでトカゲの親玉。背丈は2メートルを超えているだろう。体格は地球上の生物で例えるなら月の輪熊。その上、手足もその体格に副って、がっしりと太く盛り上がっている。そいつが威嚇するように太い尻尾をコンクリートの床に『バシーン、バシーン』と打ちつけている。その音が恐怖を増幅させる。ワニの様にせり出た口の口角は笑っているのか、吊り上がっている。美鞘はその場に縮こまってしまった。足が震えて、腰も抜けてしまったようだ。こんな怪物に立ち向かおうとしていたのかと、自分の愚かさに自然に涙が溢れてきて止まらなくなった。「たっ、助けて・・・」消え入るようなか細い声が、思わず口から洩れた。それが聴こえたのかどうかはわからないが、その大きな口からどうやって発しているのか不思議なのだが、日本語が飛び出した。かなり濁声で太く低音だから聞き取り辛いが、ちゃんと日本語として美鞘に届いてきた。「おい!あの剣はどうした?あの剣なしでワシに立ち向かおうと追ってきたのか?お前にはがっかりしたよ。地球上にもワシを楽しませてくれる存在がいることを知って、期待していたんだがな。こんな無能な小娘だったなんてな。グリーン・ビッチ星の使者も見誤ったっていうことか?」鼻で笑うような口調で怪物が喋っている。「もっと違う形で会いたかったもんだ・・・が、仕方がない。ワシにとっては良い機会なんでな、邪魔者は早いうちに排除しておくことにするよ。お前には、混ざり気のない血の匂いがしてくる。せっかくだから、その血をすべて頂くことにしよう。いや~、とてもうまそうだ。」先端がふたつに割れた真っ赤な舌が、唇の周りをべろりと嘗め回した。美鞘は、恐怖でガチガチと歯が鳴りブルブルと体が震えた。血を吸われた後のミイラ化した自分の姿が脳裏に浮かんだ。(いやだ!そんなことされるくらいなら、逃げて逃げて・・・。そのうち僅かなチャンスがうまれるかも知れない。美鞘!しっかりして!)と、自分を叱咤した。怪物は、美鞘が逃げられない様に出口の前に立っている。一旦出口から反対方向に逃げなければならないが、致し方がない。(くそ!捕まってたまるもんか。最後の最後まで逃げ通す。それでだめなら、飛び降りてでも捕まらない)覚悟を決めた。