takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

父子の決闘・その4

立山が日和山の鞍馬家に着いたのは午後4時過ぎ。山では日が暮れるのが早い。既に日差しに日暮れの気配を感じさせる。

山に入る前、立山は山全体が秋色に染まって色鮮やかになってる事に今更ながら気がついた。(この前ハヤテ君に逢いに来た時って、こんなんだったかな?)あまりそういう事に興味を持たない性格らしい。だが車を降りた時肌寒さにブルッと身を震わせ、衣替えしなきゃあいかんなと半袖から出ている両腕を交差して手で擦りながら玄関口に向かった。「こんちわー、ハヤテ君居るかい?」勝手に上がっても良いのだが一応礼儀をわきまえて声を掛けた。中から「あ、どうも。いつもすみません、世話掛けちゃって。どうぞ上がって下さい」とハヤテが奥から声を出す。靴を脱いで障子戸を開けると、葛篭に麻紐を掛けて縛っているところだった。「これが最後の荷造りなんで。後はご覧の通り運び出すだけです。」「おう、大変だったな。ゴミ袋も結構出たな。まあ、何とか全部積み込めるだろう。じゃあ早速運ぶとするか?」そう言って、立山が手に持てるだけの荷物を玄関口に運び掛ける。「なるべく早いうちに帰りたいからな。急ごう。」「はい、そうですね。最後に雨戸も締めなくちゃならないし。」「そうだな。ガスの元栓、電気のブレーカー、あと水道の元栓も閉めておいた方がいいな。」「あっ、もう全てやってあります」ハヤテが笑いながら答えた。それから10数分後エンジンを掛けて鞍馬家を後にした。

山道を下り、平坦な農道に出てひと息吐いてハヤテは立山に向かって何気に訊いた。「皆さんお変わりありませんでしたか?」それに立山は直ぐに応えず「悪いがタバコを1本吸わせてくれ。」カーラジオの下の小物入れからハイライトを取り出すと1本抜き出しシガーライターで火をつけた。煙が籠らない様にサイドウインドウを少し開けそこに向かってフーッと吹きかけた。そしておもむろに清志の状況について話し出した。「...という事で、斑組に拉致されている。」予想外の出来事が自分のいない間に起こっている事にハヤテは驚きと怒りでしばらく思考が停止した。それでも数秒程で理性を取り戻し今後の対策を落ち着いた声で話し出したので、流石は鞍馬だと立山は感嘆した。