takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

美鞘、最大のピンチ・その4

美鞘は自分が一般人より身体能力が優れているという自信があった。だが、目の前にいる怪物は人ではない。人としてのデーターは全く参考にならない。未無来社長の姿のままなら発揮できない力が原形に戻ったことにより解放されたとしたら、太刀打ちできない気がした。半面、いまの自分は、猫に対する鼠のような存在だが、鼠だってみすみす餌食になってばかりじゃない。鼠の素早さや小回り、体格を活かした狭所の移動や隠れ場所の確保。わずかだが、利点もあるのだ。本当は屋上全体を見渡して、設置された機械群や接続されているパイプの位置を把握をしたいのだが、いつ襲ってくるかわからない
怪物から一瞬も目が離せない。怪物と自分との距離は5、6メートル程しか離れていないのだから。どちらかが動く気配をみせれば、一気に追いかけっこが始まるのは明らかだ。美鞘は、向こうが仕掛けて来てから動くのは不利になると思った。体全体に力を溜め、意思を高めた。(よし、行こう!)背にしていた鉄製のボックスから体を起こし、90度向きを変えたが早いか、怪物を背にしてダッシュした。一瞬で周りを見渡し、逃走する経路を想定しようと心掛けた。
だがそれは不可能に近いと悟った。あまりにも障害物が多すぎて目先が効かず、場当たり的に移動するしか方法がないのだった。
そして、後ろを振り向く余裕はないが、怪物が自分のすぐ後を追ってきているのが、気配で分かる。時折、金属音がするのは、怪物の体が触れるからだろう。その音が、少しずつ近着いて来ている。美鞘は、顔を真っ赤に染め、汗にまみれ、死に物狂いで逃げ回った。機会を見つけて方向転換し、出入り口のドアに突進するという当初の計画は、跡形もなく頭の中から消え去ってしまっていた。