takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

美鞘、最大のピンチ・その5

イブが階段の踊り場で腰をかがめて屋上の様子を窺う。既にイーグル・アイは元に納めている。
ドアの向こう側からグレート・デストロイの声が聞こえて来たのには驚いた。人間の姿を解き、正体を露わにしたのだ。そして話している相手が美鞘であることは、ほぼ間違いない。彼が元来の姿を見せたのなら必ず美鞘は始末される。剣の持っていない美鞘は、ただのか弱い女子高生でしかないから、赤子の手をひねるように容易く彼の手に掛かるだろう。イブは屋上に出て、美鞘に加勢すべきか思案した。自分が身に着けている殻では、彼と対等に戦えないだろう。みすみすやられに行くようなものだ。無駄な行為は避けるべきだとコンピュータもはじき出している。イブの表情が苦渋の色に染まる。そのとき耳に靴音が聴こえてきて、すぐの後にペタペタとコンクリートを素足で走る音が聴こえて来た。美鞘を襲いにかかったのだと思った。とても、この場で佇んでいるわけにはいかない。とりあえずはドアを開け屋上に出なければと、細目にドアを開けて様子を見た。美鞘の姿はみえないが、極彩色の怪物の獰猛な後ろ姿が圧倒的で絶望的な意識を与えながら目に飛び込んできた。一瞬で(あっ、だめだ)と、潔く諦めるしか道はないと思ったが、その一方でふたりを追いかけなければと漠然と思った。一番近くにある3メートル程あるトランスボックスにふわりと飛び乗ると、次から次へと音もたてずに飛び移って行った。
美鞘は必死で逃げているが、怪物はやけにゆっくりと、この状況をゲームでも楽しむかのように余裕をもって追いかけている。美鞘は、床に這っている人の握りこぶし程太いケーブル線につまずかないよう、行く手を遮る様に横たわっているステンレス製のパイプにぶつからぬ様にしなければならないため、一向にスピードがあがらない。逃げながらちらりちらりと怪物の動きを確認していたから集中力に欠け、気付いた時には機械群から抜け出し、何もないだだっ広い白いコンクリートの敷地だけが広がる空間に放り出された様に佇んでいた。(あっ、やばい!)身を隠す物陰が全くない。しかし、機械群に戻ることはこちらから怪物に近づいていく事になる。恐怖で諤々と震える足を無理やり動かしながら、少しでも距離をとるためだけに走り出したが、その場所がフェンスであり、その先が屋上の外、つまり何もない空間しかないことに絶望を感じた。