takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

(第1章)親子の死闘・其の2

立山はスマホを取り出し、なにやら操作をしていたが、「これを観てみろよ」とまっとんに手渡した。それは一枚の画像で、背景が暗いのは夜だから。あまり鮮明ではないが、画面に写っている構図は理解できた。月が出ている、満月かそれに近い。ところどころにちぎれ雲、それが月の光で白く浮き上がっている。地上には常夜灯があちらこちらで光っていて中心にコンクリートのかなり大きい建造物。周辺は植樹された垣根のような背丈の高い広葉樹が茂っているようだ。ただ、当然一画面の区画だけで全体は把握できない。増してやまっとんはまだ中学生である。
背景の細部を観察して理解しろと言っても無理なまっとんだが、一目で興味を示し画面に釘付けしたモノが写っている。
それは月の高さとほとんど変わらぬ空中で対峙する二体の容姿である。
もちろんカメラが下から撮っているから、アングル的に月と変わらぬ位置になっているわけだが。左側の一体はまっとんが昨日見た天狗であることはすぐに分かったが、右にいる鬼の面を被っている一体は誰なのか。だが、間違いなく空中で対峙していると分かる画像だ。但しトリックとか合成とかがないに限ってだが。
「すげww!なんすか?空中で戦っているんすか?」まっとんは興奮気味に言った。
「ああ、そうなんだ。ある施設内の駐車場の上空で親子で戦った。左側が鞍馬疾風丸、そして右が父親の鞍馬龍二だ。ハヤテは風を操ることができ、龍二さんはサイコキネシスの使い手だ。結局、ハヤテが辛うじて龍二さんを破ったんだがな」中途半端なところで言葉を切りまっとんからスマホを取り上げ背筋を伸ばした。
(ハッ)として横を見るとマスターがモーニングセットを載せたトレイを持って立っていた。「お待たせ致しました」と丁寧な口調でいい、「ごゆっくりどうぞ」とお辞儀をして去っていった。
「ワシは大学も出ていないバカだからよー、こんなスクープがあっても、宝の持ち腐れにしてしまうかもしれねえ。誰かに記事の反応や肝の部分を指摘してもらいたくてな。
それには信用が第一だから、実際本物に出くわした人間に頼りたいわけよ。それが中学生ってのもどうかと思うのだが」立山が苦笑を浮かべてまっとんを視る。
「はあww」(いやいや、僕だって勝手に頼られても困るし。第一こちらは協力するとも何も言ってないっしょ)まっとんは言葉の代わりに大きくため息を一つ吐いた。
「いや、僕は関係ないんで。天狗の件は誰にも言いません。小山にも黙っているように言います」「だから、他を当たってください」テーブルに頭を付くぐらい下げて、飲みかけたコーヒーを残したまま立ち去ろうとした。その腕をゴツイ手でガシッと掴まれて動きがとれなくなった。ハッと立山の顔を見ると、凶暴な光が目に宿っていて、思わず身震いした。「ま~待ちなって」そう言って引き留めた口調は気持ち悪いぐらい優し気で、一瞬見せたナイフのような眼は掻き消えていた。
「ワシは昔人間だから、コンピューターが苦手でな、手書き原稿を書くからそれをチェックするだけでええんや。な?簡単な仕事やろ?本を出して売れたら、たんまり礼をはずむがな。なっ?頼むわ、この通りや」いつの間にか関西弁口調でしゃべりながら立山が今度は頭を下げた。(えww?やめてよ。親に知れたらめちゃくちゃ怒られるよ、これ)返事をしたらしまいだと思うから、まっとんは絶対首を縦に振らない。「な~!頼むわ」と、立山。そして、いきなり腰かけていた椅子を外したと思うと土下座をした。向こうでマスターが興味津々の態で見ている。
「男が土下座までしてお願いしてるんやで」と、立山のドス効いた声が床を反射して聞こえてきた。まっとんの両肩が力なく下がった。