takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

(第一章)親子の死闘・其の3

立山は、この青年が落ちたのが分かった。ほんの数年だが組織で働いた経験がものをいう。人の落とし方は教えてもらわなくても見ていれば覚える。数えきれないほど日常茶飯事にやっていたことだ。しかも目の前にいるのは、大人になりきっていない中学生だ。
「ま、ま、座ってくれよ。大丈夫、なんの心配もいらないって。ワシの頭の中に入っている記憶を原稿に起こして製本にするだけ。犯罪とは全く無縁。むしろ、読者に感謝されるくらいだ。」まっとんの後ろに素早く回り、そっと抱き込むようにして椅子に座らせる。
「今日は時間あるんだろ?ここでもう少し話を聞いてくれ。ざっとした大筋だけは話しておきたいんだ。ワシ自身も忘れかけていたことを思い出すかも知れんし」そう言って、元の席に戻った立山が、コーヒーをブラックのまま口に運んだ。
その間、俯いたまま黙り込んでいたまっとんだが、おもむろにスプーンで砂糖を立て続けに山盛り3杯入れて、ガチャガチャ音を立てながらかき回した。立山はこの不機嫌な青年がこの先どこまで親身になって自分に協力してくれるだろうかと考えた時、こんなやり方では動かないのは馬鹿でもわかると思った。。無理強いして熱意の籠もらない目で傍にいてもらっても役には立たない。こいつはやめよう。他を当たろう。時間はかかるがパートナーにするなら、熱意こそなによりも必須条件なんだと改めて思った。立山はブラックコーヒーを一気に飲み干すと、「いや、悪かったな。ワシが悪かった、許してくれ。あんたが言うように、進んで協力してくれる人材を探すとするよ。それを飲んだら帰ってくれ。お金は払っておく」そう言って席を立つと、まっとんの顔色1つ見ずにスタスタと出口付近のレジに向かって行った。勝手に協力しろと脅してきて、その後何が気に入らなかったのか、勝手に断わってきた。何なんだこのオッサンは。まっとんは首を捻って不思議がった。