takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

(第1章)親子の死闘・其の4

ポカ〜ンと立山の後ろ姿を見ていたまっとんだが、ドアを開けて立山が視界から消えてようやくスイッチが切り替わった。

目をパチクリして暫く不動の姿勢でいたが、思い立った様に席を立ち急ぎ足で店を出た。立山は元きた道を背中を丸めズボンのポケットに手を突っ込んで歩いている。ダッシュかければあっという間に追いつく距離だ。

「待って下さいよ、立山さん!」両手をメガホン代わりにして、大声で呼び止め歩みが遅くなったのを確かめながら走った。

息が切れる程の距離じゃないが、「はぁはぁ」と体裁つけて立山の傍に寄った。「ひどいなぁ、採用してくれたんじゃないんすか?」

眉間に皺を寄せて口を尖らす。立山は「あ〜?無理矢理やってもらっても…良くねぇだろ。もういいから、帰って勉強でもしてろ」

なにしに追いかけて来たのか訝りながら、犬でも追っ払っ様な口調で吐き捨てた。

「あのですね、本当に時間のある時だけの協力で良いのなら、やってみたいな〜って」「僕、超能力にすごく興味あるんで。あっ!誰でもそうか」「考えてみればリスクはほとんどないし、成功すればリターンはでかい。こんな好条件のバイト、無いから」そう言って、にこりと笑った。

「うむ、確かにそう。実在する知り合いの行動をただありのまま書くだけでベストセラーになる可能性だってある…が、世の中そんな甘いもんじゃねぇ」「だが、やって見なけりゃ分からねぇ。落とし穴の一つや二つは必ずある」「ですよね。失敗して、一銭にもならなかったって事になるかも知れないし。でも、これは男のロマンすよね」どこで覚えたのか、男のロマンと口にするまっとんを目を細めながら穏やかな表情で立山が見ている。「一緒にやってくれるのか?」立山が確信を持って訊く。「はい、宜しくお願いします」と、まっとんが深々とお辞儀をする。

「よし、じゃあ昼飯はワシんちで食ってけ。その後、ちょっとした打ち合わせをやろう」「はい!」二人は公園の裏の駐車場に停めてある、立山の車に向かった。その間、立山が携帯を取り出しどこかに電話をする。「あぁ、ワシやけど。今から30分後に家に戻る。丁度昼前になるから、飯の用意頼むわ。客人ひとり連れて行くんで。えっ?…じゃあ、即席ラーメンでも焼きそばでもなんでもええわ。うるさいな〜、ほんまにそれでええって。じゃあ切るからな、頼むで」立山が苦笑してまっとんを見る。目の前に薄汚れた軽自動車が停まっている。どうやら、立山の車らしい。ライトがチカチカして、ロックを解除した音が聞こえた。