takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

(第1章)親子の死闘・其の10

「これからの執筆作業にお前さんの協力がどうしても必要になる。協力してもらうには、ワシ自身の恥も晒さなきゃならない。それを洗いざらい晒して軽蔑されようが、今更過去に戻って無かった事にできないからな。ちょっとした覚悟のようなもが要る。ただ、腹の中で軽蔑しているとしても、記事が本となり、世に出るまでは我慢してほしい」まっとんは暗い気持ちになった。(自分なら生き恥を晒すくらいなら、こんな仕事しないけどな。どうしてもしなければ収まらないなら、協力者なんか求めないし。ただ、安易に人の過去を軽蔑したりしないけど僕は)と思った。「ちょっと時間があるから、ワシと鞍馬親子の話しをしておこうか。まず、ハヤテの父親、龍二さんと高校時代のアルバイト先で知り会った。彼が1個上でバイトの先輩だった。」「仕事は皿洗いで結構キツイ仕事ながら、龍二さんが優しくて楽しかったのを今でも覚えている」「だが、ひょんな事から調理士の先輩連中に執拗な虐めを受けて、ワシはバイトを辞めてしまった」「それからワシが社会人になり、龍二さんから結婚式の招待状が来るまでは互いに疎遠だったんだ」「まさか、ホンの短期間バイトの仲間だっただけで、式に招待されるなんて思ってなかったから感激したよ、その時は」「そして今朝話した様に冴子さんの能力の餌食に全員がなったという訳さ」「結婚式にはこの上なく幸せそうで、誰もが羨む二人だったがそれは長く続かなかった」「マンションとはいかないが、間取りも広いアパートを借り、長男の疾風丸を授かって順風満帆な生活をしていたが、ある日それは起こった」「龍二さんは役所勤めで、その日は休みだった。妻の澄子さんは、ベランダに出て洗濯物を干していた。ハヤテは玩具で遊んでいたが、アパートの住民が回覧板を持って来たので龍二さんが玄関に行き、話しをしていた」「僅かな隙が一家を不幸のどん底に落とし込んだ」「1歳を過ぎたばかりのハヤテはヨチヨチ歩きでサッシまで行き、ガラス戸を開けてベランダまで出た。そこに大好きな母が洗濯物を干している。植木鉢の花に2匹の蝶々がヒラヒラ戯れながら飛んでいる。ハヤテが蝶々に興味を持ったのは仕方ない事。蝶々を追いかける様に自身も浮かび、ベランダから何もない空間に飛び出した。そこて初めて異常に気が付いた澄子さんは、我が身を顧みずハヤテを掴まえようとベランダから乗り出した」

「用件が済みハヤテがいない事に気が付いた龍二さんが見た光景は、残酷としか言いようのない、衝撃的なものだった」「最愛の妻を死に追いやったハヤテをぜったいに許すまいと、その時から殺意の目で見るようになった」「本当に悲しい出来事だったんだ。誰が悪い訳でもない。物心つかないハヤテを恨むのは酷というもの。龍二さんは、ハヤテの中に鞍馬一族の異能力が妻を殺した。もうこの血は絶やさなければならないと思ったんだろうな、この事故が親子での死闘で決着をつけなければ終われない運命を背負わされたんだ。少なくても龍二さんは、な」「まっ、これがあの写真で写っている親子の因縁の対決ってわけさ」「駆け足で説明したが、そこまで来るには数々の紆余曲折があってな、一冊の本にできると思ってるわけさ。どうだい?行けそうか?」まっとんは話しを聞いているうちに、どんどんと気持ちが落ちこんで来て、何も喋る気にならないでいた。立山は丸めた肩をぽんぽんと二度叩いて、寂しげに笑った。