takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

(第2章)親子の和解・其の3

冴子がまっとんを不思議そうに見ている。初めて見る顔だ。しかもまだ若いから、骨董品なんかに興味を持って、来店したとは思えない。
状況を推測するに、麗美はこの青年を知っている。同じ中学校なのだろうか?
店には一見の客はよく入ってくる。いつの間にか入って、棚を一通り見て帰っていく。気に入った物があれば呼びに来るが、大概は黙って出て行く。万引きなんて滅多にない。父が店番していた時、1度2度あったという話は聞いた。素人では値打ちはわからないし、今の若者には無縁の領域だから近寄ろうともしない。
父、春蔵が生前、兄で彫物の大家祐蔵の作品を店で並べていた頃は、どこからともなく目利きの鋭い鑑定士が訪れたり、大金持ちが噂を聞きつけ来店したり、結構頻繁にお客さんが入っていたが、二人が死んで作品がなくなってからは見る影もない。
娘の失礼の段をお詫びしようかと急いできたが、どう見ても中学生で、購入目的で来たとは思えなかった。まずは、クレームの心配はなさそうで、ほっと胸を撫でおろした。
ここまで来た流れで、店主としての挨拶だけは言っておこうかと思った。
「こんにちは、麗美の学校のお友達ですか?骨董品に興味が御有りなら、遠慮せずに手に取ってご覧ください。娘が失礼なことを申しまして申し訳ございません」冴子は、深く頭を下げた。横で麗美が渋面を作っていたが、母が自分の代わりに頭を下げてくれていると気付き、母以上に深く頭を下げた。下げられたまっとんは驚いたように両手を前に出し、「いえいえ、気にしないでください」と、顔を真っ赤にして恐縮した。
そんな様子を、少し離れたところから立山がニヤニヤしながら見ている。
まっとんは、恨めしそうに立山をみて、「立山さん、何とか言ってくださいよ~」と、泣き言のように叫んだ。それで初めて響母子はまっとんが立山の連れで来店したと察した。
「えっ?立山さんのお連れさんだったの?」「えww、おじさんがなんで、まっとんさんの知り合いなの?信じられないんだけどぉ」立山は響母子のリアクションが、あまりにも酷いんで、ふてくされ気味に「ああ、ワシの連れがイケメンで悪かったな。ワシかて、若いころはイカシた好青年だったんだぞww」すかさず冴子が「私は若いころの立山さん知ってるけど?」ニヤニヤして食い入るように見てくるので、立山は苦笑するしかなくなった。