「おっとっと、済まない。つい興奮しちまってな」慌て衿から手を離し、両肩をポンポンと叩いてきた。
何はともあれ酷い目には会わないで済みそうだ。それでも緊張は少しも解けそうにない。
黙って下を向いていると、ズボンのポケットから札入れの様な物を取り出した。(えっ?お金、くれるのか)驚いて目をパチクリしていたら、中から一枚の白いカードを取り出した。それをスッと目の前に差し出し「なぜかよく誤解されるけど、俺は決して怪しい者ではないんだ」それは名刺だった。受け取って書かれている文字を読むと『ルポライター立山圭太』とだけ記されている。
「俺はフリーランスのルポライターなんだ」ちょっと、気恥ずかしそうに自己紹介してくる。「以前は経営者の伝手で郊外にあるアミューズメントストアに務めていたんだかな、性に合わなくて、こんなヤクザな仕事をしているのさ」いやいや、本当のヤ○ザだと思ったんですけどとまっとんは心の中で呟いた。「それでだ、話しを元に戻すと…」「あの〜、僕、塾に遅れるから、帰らないと」立山がヤ○ザじゃないと分かると、おずおずとだが小山が口を挟む。「おっ!これは済まなかったな」と、小山に言い、「男前のニイちゃんの方はどうなんだ?」と訊いてきた。小山は一刻も早くこの場を去ろうと、まっとんの返答も聞かずに走りだした。後に残された形になったまっとんは、友達の後ろ姿と、立山の顔を交互に見ながら、「いえ、僕は塾に通ってないんで」と、言った。実は立山がルポライターど知って、急に興味が湧いてきたのだ。ひょっとして、さっきの天狗の正体も解るかも知れない。ちょっとワクドキだなと思った。