takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブ、原点回帰・その1

高畑の運転するワゴン車は、工場が見えなくなるまでかなりのスピードで突っ走った。今の日本はどんな細い交通量の少ない道や農道でも舗装されている。されていないとすれば、けもの道くらいだ。私の在所では、一昔前までは年に2回出合いがあって未舗装のくぼみにスコップで小砂利を敷き、地均しする作業を半日掛けてやったものです。ですが、今は0。全道舗装され、出合いが無くなり楽になりました。ですが問題が一つ。このように舗装化されてしまうと気象に影響を与えます。最近の集中豪雨や、ゲリラ豪雨、不確かな季節の節目。異常気象等。気象庁は想定内などと解説してますが、狂いが生じているに違いありません。話が逸れてしまいましたので戻します。
高畑は訳が分からないながら、時速100キロ近いスピードで飛ばしている。強迫観念にとらわれてしまったかのようだ。キリクノのメンバーは『キャーキャー』と悲鳴を上げて、目を閉じている。今はまだ一台の車も見当たらない直線道だが、このまま突っ走れば、事故を起こすか民家に近着けば人をはねてしまうかも知れない。(こりゃあ、いかん!)後ろの座席から、橘が運転している高畑の方に歩き出した。「おい!高畑さん、スピード上げ過ぎだ。もう、かなり工場から離れたからスピード落としてくれ。事故ってみんなを巻き込んだら元も子もない」高畑は橘の言葉にハッと気がつきアクセルを離した。橘は、見た目でも高畑が肩の力を抜いたのがわかり、ほっと息を吐き、助手席に座っているイブを見た。イブは真っ直ぐフロントガラスに映る景色を観ている。何の感情も顔の表面からは出していない。「おい、イブちん。何があったのかは知らないが、美鞘ちゃんを無事連れ戻してくれて、ありがとな」少し照れ気味に礼を言う。そんな橘に「いえ別に。私にお礼の言葉は不要です。私は人を救助する為に造られたロボットですから」えっ!?と驚きの言葉を、橘と高畑が同時に発し、飛び出さんばかりに目を剝いてイブを見た。イブの声は二人以外には届いてないようで、他の者は知らん顔で思い思いの姿勢で座っている。橘はイブがロボットであろうことは『ほぼ』間違いないだろうと思っていたが、こんなに簡単に正体を現すとは思ってもみなかったし、高畑に至っては空に巨大なUFOを見つけたならするであろう程に顎が外れそうなほど驚いている。「あっ、高畑さん。前!前を向いて運転して下さい」橘は両手で高畑の両頬をはさみ、無理やり前を向かせた。(こりゃあ、このまま運転させてると危ないな~。どこか適当な休憩をとれるところを探して、高畑さんを落ち着かせなくては)ちらっとカーナビを覗くと、この道沿いにコンビニマークが出ている。1キロ先辺りか。「高畑さん、ここ。このコンビニで休憩しましょう」指でカーナビの画面を示し「わかった」と高畑の言葉を聴いてほっとした。

美鞘、最大のピンチ・その6

10メートル先のフェンスまで突っ走るしか残されている先はない。その道は限りなく絶望へ向かう終着点だった。5メートルほど走って後ろを振り返った。
極彩色の怪物が機械群から抜け出て来たところだった。この時ほど、悪い夢であってほしいと願ったことはなかった。しかし走りながらだから、背景がブレて見える一瞬だったが脳裏に何かが引っかかった。もう一度振り返る。無機質な金属にそぐわない黒い物体が、怪物の視覚から避けるようにステンレス製の銀色に輝く長方形の上で身を低くして様子を窺っているようにみえた。(イブさん?)イブは今日もいつもと変わらない、黒のレディス・スーツを着ていた。
間違いない。美鞘は、暗闇に一筋の希望という光が射した気がした。(彼女ならこの難関を突破し、救ってくれるかもしれない)それでも、追ってくる怪物は余りにも桁が外れている。そんなことを考えている間にフェンスまで到達してしまった。フェンスから外を見下ろせばロックオン・ミュージックのワゴン車が、ミニチュアの玩具のように小さく見える。そのうちにも怪物が真っ赤な長い舌をチロチロと炎のように揺らめかせながら、一歩一歩と近着いてくる。もう自分にできることは限られてしまった。素手で抵抗しても無駄であろうし、隙を縫ってすり抜けることも難しい。襲われる瞬間に身を躱しても、あの強靭そうな尻尾で鞭のように打たれてしまうに違いない。飛び降りたら大怪我か死ぬかのどちらかだろうが・・・。目の前まで怪物は来ていた。奇妙な容姿で吐き気をもよおし、威圧感で気を失いそうになる。ちらりとイブの居た巨大ボックスの方に目をやると、依然体を低くしてこちらの様子を窺っている。(イブさん、私はもうだめ。早く助けに来てー!)心の中で叫んでいた。そのとき怪物が覆い被さるように近づき大きな口を開けた。異臭が鼻を突き、吐き気が込み上げて来た。口元によだれを垂らしながら怪物が囁いた。『ワシに素手で対抗してこようとは、グフフ・・・お前が初めてだよ。ま、そんな事、どうでもよいことだ。お前の血は本当に美味そうだ。思わずよだれが出てくるほどたまらんわい』言葉使いも未無来社長でいる時の紳士的な口調と全く違う。これが本性を言い表している口調なのだろう。ジュルルとよだれを吸い込む音が聴こえてきて、このままいっそのこと気を失った方が楽になると思った。両肩を鈎のように鋭い爪で掴まれ、飛び降りる事さえできなくなった状態では、尚更観念せざるを得ない心境になるのは仕方がない事だった。一方、イブは巨大なキュービクルの上からその成り行きをみていた。まさかこういう事態になるとは思わなかったから、黄色の特殊スーツは着替えてしまっていた。この服装では、本来の動きが発揮し辛い。だが、たまたまラッキーなことに足元を見ると特殊ブーツだけは履き替える暇がなかったのでそのままでバスから出て来ていた。ハイヒールやパンプスだったら、追跡する段階から脱ぎ捨てるしかなかったから。イブは機能的に救助用仕様となっているから、戦闘用火器や攻撃用プログラムはインプットされていない。この緊急事態をどのように回避すればベストなのか人工頭脳が目まぐるしく模索するが、なかなか結果が出てこない。今にも美鞘は怪物の餌食になる状況に、イブの体内にある赤い石は、強制的に人工頭脳の制御を絶った。音もなく飛び降りると、怪物に気付かれないよう大回りをして真後ろから近着いた。怪物が口を大きく開け、美鞘の首筋に噛みつこうとする瞬間だった。イブは最高レベルの3に上げ、顔面を真っ赤にしながら両手で尻尾の先をしっかり掴んで、両足をコンクリートに根付かせるように踏ん張るとグイッと腰を落とした。振り向かせ、イブだと知られる事は避けたい。間髪入れず、力いっぱい腰をひねり手足に渾身の力を込めて振り切った。それは動作的にはハンマー投げのスタイルで、180度回転させて投げ放った。絶妙なタイミングだったのか、美鞘から手が離れ、怪物のみが凄まじい勢いで屋上から外に消えていった。イブは一瞬ほっと表情を緩めたが、すぐ気を引き締めた。怪物は屋上から落とされたくらいでは大したダメージを受けていない筈。すぐに、引き返して襲ってくるだろう。一刻も早くこの場から脱出しなければならない。美鞘を抱かえて飛び降りる以外に道はないと思えた。その為に、ワゴン車の停めてある逆方向に投げ放ったのだから。
人間なら恐怖で足が竦むような高所でも、ロボットゆえに何の躊躇もなかった。半ば気を失いかけて倒れ込んでいる美鞘を片腕でかかえ、ひょいっと飛び降りた。だがいくらロボットでも20メートル近い高所から飛び降り、アスファルトに叩きつけられれば損傷は免れない。それ以上に美鞘が心配だった。地面に近着くにつれどんどん加速していく。(今だ!)美鞘を抱えていないもう片方の腕から工場の壁面に強烈なパンチを繰り出した。『バーン』と辺りに響き渡るほどの爆裂音と共に、イブの腕が肘の近くまで壁面に突き刺さり、その場でふたりは宙吊りとなったが数秒後『バキーン』と、金属が折れた時のような音がして再び地面へと落ちて行った。パンチを入れたのが地上から4,5メートル地点だったので、難なく着地したイブは俊足をとばしてワゴンまで到達した。「高畑さん、急いで出発して!お願い」乗り込むと同時に運転席でぽけーとしていた高畑に声を掛けた。高畑は、何か声を掛けようと振り向きかけたが、「訳は途中で話すから、早く出して!」有無を言わせないイブの口調に、さすがに高畑も無言でエンジンを始動させ、駐車場を出た。ゲート手前で警備員が警備室から出て来た。一旦停止して、退場の手続きをとらなければならない。「高畑さん、停まらず突ききって!」「えっ?そりゃ・・・まずいんじゃ・・・」そう言いかけたが、尋常ではないイブの様子と美鞘の容態に何かがあると勘付いた高畑は、停止の指示をしている警備員を無視するように速度を上げてゲートを突き切った。

父子の決闘・その5

「僕は父さんを買い被っていた。もうちょっとマシな人だと思ってました。」「まさか僕と戦うために友達を人質に取るなんて。最低だよ。」とハヤテは言った。
「僕は父さんとの戦いを避ける事は出来ないと思っている。だからこうやって修行しているのに。そんな汚い手を使うなんて許せない。」ハヤテは感情を抑えながら淡々としゃべり、立山は黙ってそれを聴いている。沈黙が流れ息苦しい空気が車内に漂う。立山は、口に咥えたままのタバコが吸わないうちに短くなり灰が落ちそうになってから、ようやく灰皿の中でグリグリともみ消して蓋をした。そして静かな口調で語り出した。「あのな、ハヤテ君。わしはちょっと違う見方をしてるんだよ。確かに龍二さんはハヤテ君との決闘を条件に清志を引き渡すと言った。だが龍二さんがその提案をしなかったら、清志はもっと酷い目に会ってた筈だ。わしは龍二さんは清志を助ける為に強引に取引を持ち掛けたと思ってるよ。」「いつだって龍二さんは不利な状況からわしを救い出してくれた。今回もわしがまだら組に単身乗り込んで五体満足では帰って来れないところを、機転を利かせて何事もなく組から出してくれたんだ。」「ハヤテ君が思っているほど、親父さんはどうしようもないダメ人間じゃないよ。」立山はそう言うと、ぎこちない笑顔でハヤテを見た。ハヤテは立山の話を吟味するように考え込んでいたが、やがてフッと息を吐いて「そうだったんですか。・・・ありがとうございます立山さん、僕はまだまだ表面だけでしか物事を判断できないみたいですね。父さんは立山さんという仲間というか友人がいて、本当に良かったと息子の僕からしてそう思います。今後どうなるかはわかりませんが、いつまでも良き友人でいてあげて下さい。お願いします。」「おいおい、勘違いしないでくれよ、わしはハヤテ君の仲間なんだぜ。」と立山は笑い、「何とか大事に至らず事が収まってくれるよう願うばかりだよ。」「そうですね、できれば。」ハヤテは曖昧に返事をしてそう云うわけにはいかないだろうと内心思った。
「ところでですね、立山さん。修行しているうちに能力について色々解ってきたことがあるんですよ、聞いてくれます?」ちょっと嬉し気にハヤテが言う。「おっ?何だ何だ?わしみたいな普通の者でも理解できることなのかい?」「う~ん、今までの付き合いである程度僕の能力は分かってもらってるから、大丈夫だと思います。イメージ湧かなきゃ聞き流してもらっても全然構わないんで。」そう言いながら、ハヤテ理論を語り出した。