takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

takakazuのブログの新着ブログ記事

  • イブ#その34

    「あっ、そうそう。イブさんのショルダーバッグも汚れていたから、よく絞った濡れ布巾で拭いたけどよかった?」歩美がイブに言う。「・・・・あ、はい。・・・どこに置いてくれましたか?」「洗濯機の横の台の上に。持って来ようか?」「すみません、お願いします」オッケーと言って身軽な動作で歩美が部屋を出て行く。そ... 続きをみる

  • イブ#その33

    玄関の掃除を終えて気だるそうに居間に入る。弘と歩美がコソコソ小声でなにか話している。 均は既にお笑いが終わってニュースをやっているテレビを、何気に観ながら胡坐を組んだ。それを待っていたかのように、2人が均に話しかけてきた。「兄ちゃん、あの人普通じゃないよ。服着たままシャワー浴びてたんだよ」歩美が均... 続きをみる

  • イブ#その32

    イブと歩美が風呂場に行く。古い建屋だが一応シャワーがあり、歩美は使い方をイブに教えている。「操作の仕方わかる?」「いえ、解かりません」「そう?色々なタイプあるからね。」1から説明をするのだが、操作方法と云うよりボタンひとつレバーひとつに初物を見る様な仕草をする。(この人、シャワー浴びた事ないのかな... 続きをみる

  • イブ#その31

    と、その時目の前で女性の声がした。「ありがとうございます、もう大丈夫です」 今まで棒状になっていた体は、しなやかさを取り戻し密着している均に息づかいや心臓の鼓動まで伝わってきた。イブは両足を曲げ正座して弟妹を見ている。均はあわてて腕を解き、イブの前方にまわり込んだ。イブは視線を均に移し、「迷惑をか... 続きをみる

    nice! 1
  • 伊藤君の大誤算・その2

    軽く昼食を摂った後4人は車に乗って郊外の大型ショッピングセンターに向かった。ハヤテの身の回りの物を買うためだ。 「清志君、本当に帰らなくてもいいの?あなたを送ってから出直してもいいのよ。」と、冴子が言う。 「いえ、いいんです。たまには僕も楽しみたいんです。一緒に連れって行ってください。今回のことで... 続きをみる

  • 伊藤君の大誤算・その1

    『喫茶サンシャイン』で話しているうちに昼前となり、軽食をオーダーすることにした。 冴子はミックスサンドセット。サンドウィッチにコンソメ・スープが付いてくる。立山はミート・スパゲティのセット。これもスープつき。 清志とハヤテは少しボリュームのある、ハンバーグ定食のライス付。食事中は話す言葉も少な気で... 続きをみる

  • それぞれの過去・その6

    「その頃俺は22歳だったから龍二さんはひとつ上の23歳。斑目は30歳を越えてたんじゃないかな?普通で考えりゃぁ、修羅場をくぐって凌いでいるあの組長や斑目などの組員からしてみれば、口を利く事さえも許さない一般庶民のただの青年。その彼に、たった一夜の数時間でわけなく仕切られてしまった。 鞍馬一族の者か... 続きをみる

    nice! 1
  • それぞれの過去・その5

    「じゃあちょっとあちらに行こうか。彼らも落ち着きを取り戻したみたいだからな。」龍二がスツールから降りた。それを立山が横目で見ていると、 「何している、お前も行くんだよ。」と、龍二が声を掛けた。(えっ?俺も?勘弁して欲しいな~)と、思いつつも逆らえるわけがない。言われるままに後に続いた。「親分さん、... 続きをみる

    nice! 1
  • それぞれの過去・その4

    皆は再びクラブに戻った。いつの間にか一般客は居なくなっていた。ママが帰したのだろう。元のテーブル席に組長と若い衆がふたり。龍二と立山も元の止まり木に座って、斑目だけが出口に近い一番端の止まり木に移動して死人の様に俯いたまま微動だにしていない。 立山が他の者に聴こえない様に龍二の耳元で囁くように話す... 続きをみる

  • それぞれの過去・その3

    銃声音は大して大きくなかったから付近の住民は花火かタイヤのパンクぐらいにしか思ってなかったのだろう、誰一人出てくる気配がない。 斑目が手にしている拳銃は、おそらく護身用の小型拳銃だろう。だが、至近距離から撃ったので殺傷能力は充分にあるはずだ。 クラブのドアが放たれ、立山と幸恵そして組長が飛び出して... 続きをみる

    nice! 2
  • それぞれの過去・その2

    「世の中つまらんと思い、生きていてもしょうがないと日々過ごしていたが、偶にはこんな楽しめる事もあるんやな~。ストレス溜まってる分チカラも半端なく出せそうや。圭太よ、今の俺は麻雀屋での非力な俺じゃないぜ。こんなクズ共、叩きのめしても本人以外泣く者はひとりとしておらん。むしろ喜ばれるくらいや。」龍二は... 続きをみる

    nice! 2
  • それぞれの過去・その1

    「おう幸恵、久しぶりだな。」上機嫌の斑目が、カウンターの中で止まり木(一本足のスツール)に座っている立山達の相手をしている幸恵に声を掛けた。 テーブル席で他の客についていたママさんが、驚いた顔をしてあたふたと駆け寄ってきた時には、彼らに続いて5人の若い衆が入ってきたのと同時だった。 ママさんのもて... 続きをみる

  • 父子の闘い・その32

    冴子たちのテーブルだけが、暗く閉ざされた空間になっていた。ウェイトレスのお姉さんからしてみれば、早く腰を上げてくれないかと願うばかりだと想像する。だが、当の本人たちにその意識がない。 「だけど・・・龍二さんは、俺にとっては恩人と云っていい人なんだ。」唐突に、俯いた姿勢のまま立山が過去の話をしだした... 続きをみる

  • 父子の闘い・その31

    冴子はハヤテを抱きしめながら鞍馬父子の行く末を心底嘆いた。 今の龍にぃには、優しく思いやりがあったかった十代の頃の面影が欠片も見当たらない。たったひとりの実の息子を傷つけ、いや死なせることを目的に執念を燃やし生きている。龍にぃは暗闇に住んでいる鬼のようだ。そして、暗闇よりもっと深い地獄へと進もうと... 続きをみる

  • 父子の闘い・その30

    冴子はハヤテを抱きしめながら、祐蔵が香典返しを持参して店(骨董・民芸の店 響)に訪れたときの事を思い出していた。なぜかハヤテを抱いていた。(まるちゃん、龍にぃと一緒に住んで居ないのかしら?)その時ふと疑問に思ったが、その後の、祐蔵の話しを聞いて愕然とした。 「あれは事故じゃったんだよ。産まれて一年... 続きをみる

    nice! 1
  • 父子の闘い・その29

    父に恨まれている理由を教えてほしいと懇願したことをハヤテは悔やんだ。 体全体が震えだし、意識が遠のきそうになった。「おっ、おっ、おおおwww!」抑え切れない慟哭が、店内に響き渡った。お茶を楽しんでいる連中が(何ごと?)と思わず立ち上がってハヤテを視ている。ウェイトレスのお姉さんが、小走りに目の前ま... 続きをみる

  • 父子の闘い・その27

    信長の背から秀吉が降り、「信長、じゃあ頼むよ。」とハヤテが声をかけると翼を広げて信長は飛び立った。 横断歩道のない道路を車の行き来を見計らって渡り、喫茶店に戻った。 冴子らのテーブルに近付くと、皆一瞬ビクリと怯えた顔をして一斉にハヤテを見た。 「ほっ・・。まるちゃん、おかえり。龍にぃが戻って来たの... 続きをみる

  • 父子の闘い・その26

    ハヤテは喫茶店の出入り口に神経を集中させながら、信長に声を掛ける。 「信長、今から男の人がふたり出てくる。彼らの顔をよく憶えておくんだ。そして、しばらくの間彼らを見張っていてほしい。彼等が車を出したら尾行し今日行った場所に向かったら、僕に知らせてほしいんだ。」 ハヤテは人の言葉で話している。それが... 続きをみる

    nice! 2
  • 父子の闘い・その25

    ハヤテが席に着くと冴子が暗い表情をしてハヤテを見た。立山も心配顔でハヤテを見る。 「あの、一番奥の席で、背中を向けているのが、あなたのお父さんよ。」「・・・はい。」双方、承知の上での会話をした。 「さあ、何か飲みなさい。みな、アイス・コーヒーを注文したわ。」淡いピンクと水色が爽やかな花柄のエプロン... 続きをみる

    nice! 1
  • 父子の闘い・その24

    店は、程好く空調がなされていて、一同は入った途端に心地よい爽やかな気分となった。 先頭で入った立山が、観葉植物で仕切られている各テーブルを素早く眼だけ動かしチェックする。座れば植物と衝立で遮蔽され、ほとんど様子を窺うことができないが、今は立っているから店内の客の上半身だけだが見る事ができた。客は、... 続きをみる

  • 父子の闘い・その23

    冴子と清志を乗せたレンタカーは病院の駐車場を出て、公道に出た。 次第にビルやマンションが多くなり、走る車の台数も増えてきたが、尚も立山は走り続けた。 やがて歓楽街と思われる一角に入って行くと、速度を落とした。飲み屋の派手な看板が軒先やビルの外壁に設置されているが、暗くなって誘蛾灯の如く輝き客を誘い... 続きをみる

    nice! 2
  • イブ#その30

    それにしても奇妙な体勢で倒れている。均は、これは現実に起きている出来事なのか?自分は夢でも観ているのだろうか?と頬をつねりたくなった。確かに変わっている人だとは思った。が、なぜに他人の家の玄関で、これ見よがしにこの状態なんだと。顔面を横木に打ち付けて、へこむ程強打しているにも関わらず苦痛に歪んだ表... 続きをみる

    nice! 1
  • イブ#その29

    走り出して間もなく急激に動作が鈍くなった。今になって、レベル3を発動させてしまったツケがまわってきたのだ。赤い石から発してるエネルギーが残り少なくなってきている。人工頭脳にはまだ影響を受けていないが、各所の動力部分への供給量が極端に減少している。足の動きが緩慢になり、なかなか目的の家に辿り着けない... 続きをみる

  • イブ#その28

    『ズーンww』篭ったような地響きがした。畑のど真ん中、雨上がりの水を充分に含んだ土の中に全身が呑み込まれた。駅までその音は届いただろうが、駅員は改札口でホームに戻ったイブの動向に気を取られていたのか、確かめにも来なかった。穴の中から無表情で上半身を起こし、辺りを見回したが辺鄙な片田舎、ネコの子1匹... 続きをみる

  • イブ#その27

    扉が開き下車客が降りるのを待って乗り込むと、客は疎らで座席も所どころ空いていた。だが降りる駅までは10分程なので、いつもの様に出入り口付近のつり革を持った。均に倣うように、それが当然の如くイブが隣のつり革を掴んだ。均はさっきから、いや恐らくバスに乗る前からだろう、ある種の嫌な予感が頭の片隅に芽生え... 続きをみる

  • イブ#その26

    「それじゃ」とひとこと言って、均は駅舎に向かった。自動改札機を抜け、下りホームへの陸橋を上る。ローカルで2つ目の駅、前橋が最寄り駅だ。待合所の時刻表をチラ見し12時08分発があるのを確認している。上手い具合に後5分ほどだ。暗い顔でベンチに座って何気なく線路を見ていたが、ふと小百合の登録を抹消しよう... 続きをみる

    nice! 1
  • 父子の闘い・その22

    清志は、まさかあの薬のせいで幻影が観えているのかと我が目を疑った。なぜなら、待合所から見たあの大きな鳥がまだ車の上に停まっていて、自分達が近付きつつあるのに、一向に飛び立つ気配がないからである。 むしろ、ソッポを向きつつ猛禽類特有の鋭い眼で、こちらの様子を窺っているような気がした。 (普通、野鳥は... 続きをみる

    nice! 4
  • 父子の闘い・その21

    診察室から出てきた清志はちらっと受付窓口を見、そして待合室に冴子たちがまだいないことを確認しつつ、茶色い長椅子の端っこに座った。 壁に掛けてある大型の液晶テレビは国会中継を映していて野党の共産党議員が、熱弁を繰り広げている。 テレビに目を向けてはいるが観ていない。清志は少し落ち込んでいた。山崎先生... 続きをみる

    nice! 1
  • 父子の闘い・その20

    「つまりだな、君は現実のなかで脳が創りだした夢を観ていた。心が君の周辺の物を変化させた。これは唯心論の定義みたいじゃないか?」 「だが唯心論や観念論提唱者は、ただ単に唯物論に対して反論材料として用いただけとの風評が強くある。つまり、嫌がらせだ。」 「私としては全て世の中、物体のみ存在し、心や念や精... 続きをみる

  • 父子の闘い・その19

    清志の症状を診た脳神経内科の山崎先生は、最初に服用した頭の良くなる薬が、確かに脳細胞から多量のホルモン分泌を促す向精神薬類であることを、概ね認めた。病院にも類似した薬があるという。しかし、薬の作用によって一時的に脳の機能が活発化したところで、長期にわたり影響され続けることはないという。 この病院の... 続きをみる

  • 父子の闘い・その18

    冴子は、バッグからスマホを取り出し清志に電話を掛けたが、すぐにあてた耳から離した。「マナーモードだわ。」メールアドレスも登録してあるのか、すぐにキーを打ち出した。その間3人とも無言で居る。途中から冴子と席を変わり、後部座席でハヤテが秀吉をかまっている。 打ち終わったのかスマホから目を離し、「とりあ... 続きをみる

    nice! 1
  • 父子の闘い・その17

    清志から話を聴いた昨日の今日だ。調整剤が残り少ないことから殆ど無計画に行動を起したが、正面から突っ込むと拙い結果になるかもしれない。 先々、清志が疑われて暴行される危険性もある。「そうね、今日は様子を探るだけで帰りましょう。脇道はあるのかしら?」冴子と立山はカーナビを覗く。「うーん、車がいっぱいい... 続きをみる

  • ひとりと一匹

    私が勤めから帰り車庫に車を入れて家に近づくと既にミャーミャーと鳴き叫ぶ(まさに叫ぶ)声。裏口の磨りガラスに猫の姿が映っている。 「はいはい」と言いながら家に入るとすぐに足に絡まってくる。冷蔵庫から大好物のしらす干しを取り出し皿に小分けして置くと飛びついて食べる。改めて部屋を見ると、今日はいつも以上... 続きをみる

    nice! 1
  • 父子の闘い・その16

    「龍二さんの妻、つまり疾風丸君の母が亡くなり、龍二さんは自暴自棄に陥っていた。その頃俺はまだJA(農協)に勤めていたんだが・・・。 あるトラブルに巻き込まれていた。勤めていると飲み会が結構あって、二次会三次会ってのは、ざらだった。」そこで言葉を切って、「疾風丸君には、少し理解し難いかな?まあ適当に... 続きをみる

    nice! 2
  • 父子の闘い・その15

    「ぷはっ!何ですか、これ?面白い飲み物ですね。舌にピリピリくる。」「でも、甘味もあってそんなにわるくない。」 そういって、少しずつ飲み込んでいる。(さすが、適応力あるな)と、立山がコーヒーを、飲みながら見ている。 「ここ暑いから、車に戻って飲もう。」冴子の為に、もう1本缶コーヒーを買って車に戻った... 続きをみる

  • 父子の闘い・その14

    山崎脳神経内科は市街地から少し離れた、緑の多い環境の良い処に建っていた。 まだ年数が然程経っていないようで、モダン且つ機能美を併せ持った、見た目にも綺麗な病院であった。 診察客用駐車場には、3台しか車は停まっておらず、冴子は、待合に時間が取られる事はないだろうと、ひとまず予測し安心した。 冴子と清... 続きをみる

  • 父子の闘い・その13

    立山がパネルを操作しだした。「あ~、出た出た。ここから12、5キロ先だな。もう一箇所は?」清志が「え、と・・・。斑目脳器官研究所・・・だったかな?」と答えると「えっ?!斑目だと!?」驚いたように立山が訊き返す。「何であんなとこに用があるんだ?」語気が荒い。三人は、急変した立山の様子に戸惑った。冴子... 続きをみる

    nice! 1
  • 早速MP3を聴きながら♪

    友人にパソコンからSDカードに入れてもらった歌を聴きながら、海岸を1時間程かけて歩いた。彼と私は同い年で歌の好みもよく似ている。陽水、中島みゆき、大滝詠一などを入れてくれた。彼が言うように、歌を聴きながらだと、ホント全然疲れない。そして最後のアイテムが今日届いた。紫色のリュックサック。これにお茶や... 続きをみる

    nice! 2
  • 父子の闘い・その12

    立山は店のガラス戸を開け、店内を見渡しながら一度だけここに来た時の事を思い出していた。 あの日はアルバイト先の先輩に苛められ、龍二に辞めることを伝えるために訪れた。あのとき、アンティークで奇妙な品々をたった数分ではあったが好奇の目で眺めた。そのときはただ単に面白いとの印象だけだった。 (俺は何ごと... 続きをみる

  • 父子の闘い・その11

    「写真ですか?」居間の小さなテーブルを囲んで、冴子とハヤテが座った。冴子が「ほんと!懐かしい~」と笑顔を見せながら一枚ずつハヤテに渡す。 それは結婚披露宴の時の写真だ。薄々そうじゃないかと思いながら、「どなたの結婚式ですか?」とハヤテが訊く。「あなたの、お父さんとお母さんの結婚式よ。」やっぱりとハ... 続きをみる

  • 父子の闘い・その10

    冴子が掃除をしている間、ハヤテは店に飾ってある骨董品やら彫刻品を観ていた。 じいちゃんの木彫りは、ひと目見てわかる。幼い頃から土間や居間で隣に座って見ていたから。 見覚えある彫り物も幾つかあった。(あ~、なつかしいなー)すぐさま、あの頃が蘇ってきた。じいちゃんが集中して彫っている時は、怒っているよ... 続きをみる

    nice! 1
  • イブ#その25

    バスが佐田駅前に到着した。ゾロゾロと乗客が降りていく。均もタイミングを見計らって座席を離れ列に加わった。定期券を出し、運転手に見せタラップを降りた。結局デートはできず家に帰るだけとなったから、弘と歩美に言っておいた「昼食はラーメンでも作って食べなさい」は取り消して、少し贅沢だがトンカツでも買って行... 続きをみる

  • イブ#その24

    公園を出て彼らから見えなくなったのを確かめて、均はほっと安堵のため息を一つつき立ち止まった。イブと向かい合って「勝手なことをして、すみませんでした」と頭を下げた。イブの反応はと云うと、ただ微笑んでいるだけで言葉もなく黙っている。(あれ?)違和感が漂う。関わらないほうがよいと黄信号が頭の中で点滅する... 続きをみる

  • イブ#その23

    均はいきなりベンチの女性が目の前に現れたので、驚きと恐怖で血の気が引くのを覚え一歩退いた。だが、一点の曇りも無い澄みきった瞳に魅入られ、魔法に罹ったように見つめ続けた。その瞳は、今の自分の心境を映しているかの様に、憂いを秘めて悲しげであった。彼女がしなやかに右手を差し伸べたから、それに従い手を握っ... 続きをみる

  • イブ#その22

    今日の泥雲に埋め尽くされた空のように、赤ら顔がくすぼって見え、雄三の表情は暗かった。半年前までは雄三宅で酒を酌み交わし、まるで親子の様に打ち解け談笑していた頃とは全く別人ではないかと思える程、今までに見たこともない冴えない表情で目の前に来て「お母さんの葬式以来のご無沙汰です」かしこまって深々と頭を... 続きをみる

  • イブ#その21

    土曜日の午前10時。空は薄雲が覆っていて久しぶりに愚図ついた天気になるとの予報だった。均はスーツにネクタイと滅多にない余所行きの服装に身を包み小百合を待っている。バイクは売り払ってしまっていて通勤も電車とバスだから、当然の如くこの公園にもそれを利用した。小百合は電話で迎えに行くと言ってくれたが、お... 続きをみる

    nice! 1
  • 父子の闘い・その9

    ハヤテが立山の所から帰ってくると、響親子が気忙しくバタついていた。「時間割ちゃんとした?ハンカチ持ったわね?忘れ物ないよね?」冴子の声。 「うん、大丈夫。ちゃんとしたよ。」ウンザリって感じで麗美が応え、「じゃあ、行ってきます。」と,使い込んで色がかなり褪せている赤いランドセルを背負った。 冴子の肩... 続きをみる

  • 父子の闘い・その8

    「おはようございます。」古くて建付けの悪くなった玄関の戸を開け、ハヤテは戸口に立って挨拶をした。 昨日の夕方に訪れた時には周りを観る余裕はなかったが、下駄箱の上に金魚の水槽が置いてあり、五匹の金魚が水草の周りを、気持ち良さ気にゆったりと泳いでいる。その隣には小判を持った白猫の瀬戸物の置物が鎮座して... 続きをみる

    nice! 1
  • 父子の闘い・その7

    麗美は昨夜の出来事なんか忘れたようにはしゃいでいた。その原因はテーブルの上にあった。 ハヤテは秀吉に麗美の相手を頼んだのだ。少女にとって小動物は何よりの癒しになると思ったのだ。 何時も以上に不機嫌な顔で席に着いた麗美が、おもむろにトーストを齧った瞬間、目の前に現れた茶褐色の生き物に最初はパニクッて... 続きをみる

    nice! 2
  • 父子の闘い・その6

    「おばさ・・・冴子さん。朝食の準備がいち段落したら、信長を紹介するよー。」そう言って、生ゴミの中からキャベツの固すぎて捨てた葉っぱや、削り取ったにんじんの表皮、昨日の残飯などを、二重にした古新聞の上に寄せ集めた。結構な量になった。「後、2、3分待ってね。後は弱火にしておけばいいだけだから・・。」冴... 続きをみる

    nice! 2
  • 父子の闘い・その5

    『トン、トン・・・』まな板の上で何かを刻んでいるのだろうか、小気味良い音が聴こえてきてハヤテは目を覚ました。 布団を折りたたみジャージを着ていると、秀吉が素早く足元から肩まで一気に駆け上ってきた。 「おはよう、秀吉。昨日は狭いところばかり居させてごめんな。」手を持っていくと手のひらにちょこんと乗っ... 続きをみる

    nice! 1
  • 今後のスローライフアイテム

    音楽好きの友人がMP3プレーヤー(超軽量ウォークマン?)とワイヤレスイヤホンを買って公園の山道を歩くことを日課としていると聞いて、私も買う事にしました。実はワイヤレスイヤホンはかなり以前に片耳用を安売りしていたのを買い、3か月ほどで不具合を起こし捨てたこともありプレーヤーもポイントでメチャ安いのを... 続きをみる

  • 父子の闘い・その4

    「あっ、いけね!すっかり忘れてた!」脱いであったジャージのポケットにそっと手を突っ込み、リスの秀吉を掴み出した。 すっかり寝ついていて、まるでマスコットの様に微動だにしない。「ま~、可愛いぬいぐるみね~」冴子が触ろうとする。 「ぬいぐるみじゃないよ、友達の秀吉だ。本物の日本リスだよ。」そういって布... 続きをみる

  • イブ#その20

    イブは均を知っていた。あの日最初に見たのが彼だったから・・・。 それは快晴で穏やかな秋半ばの日曜日。均はまだ高校生で、幼い弟、妹を連れて近くの小高い山にハイキングに出かけるところだった。各自,母に弁当を作ってもらいリュックにお菓子と共に詰め込んだ。「じゃあ行こうか?」均がにこやかにそう言うと「うん... 続きをみる

    nice! 1
  • イブ#その19

    看護師の伊藤が出て行って20分程しただろうか、担当の整形外科医松本ともう一人若い医師が伊藤と共に病室に入ってきた。松本が「どうですか?具合の方は」と、先ほどのにこやかな表情ではなく、(少し困ったな)と、そんな顔つきで博士の目を見た。「伊藤に聞いたのですが記憶がハッキリしないと?・・・」そして松本の... 続きをみる

  • イブ#その18

    果てしの無い暗闇の世界を博士は歩き続けた。そして針の先ほどの白い点が見えたから、点に向かって歩き出すと、点は次第に大きくなりやがて眩しい光となって目を瞬かせた。それは、人工的な灯り。天井に張り付いている蛍光灯のあかりだった。咄嗟に起き上がろうとしたが、全く力が入らなかった。首をひねり周りを見回した... 続きをみる

  • イブ#その17の2

    次の日も快晴だった。いつものように高井は温茶を一口すすった後、弁当箱を取り出し均はパンをかじって空を見上げた。均は技術課の高井に今回の不良品の原因を訊ねた。この会社の技術課の仕事は、まず受注された製品の金型作成図面を引く事から始まる。図面を引いた後金型専門業者に依頼して、出来上がれば試作を繰り返す... 続きをみる

  • .イブ#その17

    その後、母は精神的ショックが余りにも大きく、生きる希望を失ったように床に伏したままでいたが、殆ど食を摂らない状態が続き、均らの励ましにも応えず父の後を追うようにしてこの世を去った。残された彼らに、今まで下へも置かぬ態度で接していた親戚は、潮が引くように余所余所しくなり離れていった。それに対して3人... 続きをみる

  • イブ#その16

    父が自殺をしたと知らせを受けたのは午前の法律の講座を受けている最中だった。 携帯のバイブに気付き、送信先を見ると母からだった。(何かあったのか?)首を傾げる。今までに一度も掛けて来た事のない時間帯、嫌な感じがした。そっと室外に出て、廊下で通話ボタンを押した。「もしもし?」均が言うが早いか「ひとしw... 続きをみる

  • イブ#その11

    20分後公園の石のベンチで、博士は仰向けになり夏雲を見ていた。途中でイブの背中を力一杯叩き、ようやくスピードを落とさせたが寿命が10年縮まった思いであった。(暴走・・?ふっ、エヴァじゃあるまいし・・・)と、苦笑しながら体を起こす。隣ではイブが背筋を伸ばしフリルの付いた涼しげな白の夏物ドレスと、それ... 続きをみる

    nice! 1
  • 父子の闘い・その3

    「ありがとうございます。」テーブルを挟んで冴子と向かい合うように座ったハヤテは、冷たい麦茶によって露ぶいている硝子コップを手にとって「おっ!」と一声あげて、のどを鳴らしながら一気に半分ほど飲んだ。「あ~っ!うまいー」「体の中に染み渡りますね~」そう言って、冴子に笑顔をみせた。「おいしい?好きなだけ... 続きをみる

  • 父子の闘い・その2

    思えば、鞍馬家の歯車が修復不可能なほどに狂ってしまったのは澄子の事故が切っ掛けだった。 叔父の祐蔵は、狂気の目をした龍二を山から追い出し、強力な結界を張った。それ以来、鞍馬家には何人たりとも足を踏み入れることができなくなった。 身内の春蔵や冴子さえも結界は解いてもらえなかった。疾風丸を龍二から守る... 続きをみる

    nice! 1
  • 最終章・父子の闘いその1

    夜も更け、冴子は清志を帰した。明日は研究所に向かわなければならない。彼の精神的負担はこれまでのことを考えると相当大きかったに違いない。せめて睡眠を充分とって体調だけは整えさせたい。明日の朝、10時までに来ればよいと伝えた。そして、今日娘の麗美が受けた精神的ショックを考え、残念ながら家庭教師は辞めて... 続きをみる

  • 悪魔の掌中その30

    「明日にでも病院について行ってあげるわ。だから安心して今夜は寝なさいね。」冴子の暖かい眼差しを受け、感謝の眼差しで返す清志だった。 「だけど病院側が入院して検査すると言ってきたら、あなたから正直に両親に話してね。大丈夫、両親はあなたを叱りはしないから。」「その薬も、病院で調べてもらいましょうよ。私... 続きをみる

    nice! 1
  • 悪魔の掌中その29

    ただ・・・、ここでこんな話をするのもなんですが・・線路に飛び込んだ途端、気を失ってはいたんですが暗闇の中で不思議な感覚を受けました。 それは、今でも憶えているんですけど・・・。なんか温かな真綿に全身がくるまれた様な、赤ちゃんになって母さんの胸に抱かれているような、 もっと遡って母さんの胎内で羊水に... 続きをみる

  • 悪魔の掌中その28

    僕は悩み続けました。秀也に押し付けられた薬を誰かに飲ませるという罪の意識も勿論あるのですが、そもそも自分の性格からして交渉事を成し遂げること自体に無理があったのです。僕は自分で言うのもなんですが、内向的で会話するのも得意じゃないし、増してやハッタリや嘘なんて顔色変えずに言えるわけがない。だけども、... 続きをみる

  • 悪魔の掌中その27

    「お前が飲んだ開発薬とは種類が違う薬を、知り合いに勧めてくれりゃあいいだけなんだ。簡単な事だろ?」そういって僕の反応をじっと視る。 「そんな顔するなよ。」体を少し傾けて制服のポケットからプラスチックの手のひらに隠れる程のタブレット・ケースを取り出した。蓋を開けると水色の錠剤が10錠ばかり入っている... 続きをみる

    nice! 1
  • 悪魔の掌中その26

    次の日、秀也は午後から登校してきました。体調は戻ったのか気にはなっていたのですが、彼の正体を知ってしまった今、嫌悪感が先に立ち、目を合わせる事さえダメって感じで・・・知らん顔してたんですが、後ろから肩を叩かれ「よぉ、無視かい?」と意味ありげに笑ってきたので「何とも無いようでよかったね。」と、ひと言... 続きをみる

    nice! 1
  • 悪魔の掌中その25

    「すみません。今の話もう少し詳しく話してもらえませんか?」ハヤテは消え入るような弱々しい声で清志に言った。『まるで鬼だ!』清志のその言葉に相当ショックを受けた。(僕の父は鬼なのか?さっき観た夢に出てきた父は優しさに溢れていた。温かい人柄を肌で感じられた。夢は夢でしかなかったのか?それとも、あの夢に... 続きをみる

    nice! 1
  • 悪魔の掌中その24

    秀也には驕りがある。お金持ちの親と、誰もがひれ伏す組織のボスが叔父なのだ。労せずして2つの力を手にしているとの思い込み。良い悪いは別にして、父も叔父も1から築き上げたからその存在感に重みがある。産まれたときから周りにちやほやされて育ってきた彼には、なんのポリシーも信念も持ち合わせていない。あるのは... 続きをみる

    nice! 1
  • 悪魔の掌中その23

    斑目所長は息子の秀也をちらっと見てから、僕に話しかけた。「君は秀才だと秀也から聞いているが、人の脳の働きについてどの程度知っているかね?」そういって冷茶を一口飲み込んだ。「はあ。」と曖昧な返事をして所長を見返す僕の答えを待つ気はないのか独り言の様に話し出した。「この研究所の主な目的は、老人の脳の病... 続きをみる

    nice! 1
  • 悪魔の掌中その22

    研究所がどこにあるのか、遠いのか近いのか、何時帰れるのか。逃れられない今の自分の立場は、地獄に護送される囚われ人の様だ。後部座席から見るフロントガラスから観える景色は、いつの間にか街並みは消えて、田畑ばかりで何の刺激もない一本道をひた走っている。30分も走っただろうか、目の前に突然、森が現れた。い... 続きをみる

    nice! 1
  • イブ#その15

    『ウ~wwww』公園裏にあるゴム成形工場の昼休みを告げるサイレンが鳴った。10分程して二人の工員が、手に弁当と水筒を持って公園内に入り石のベンチに並んで腰掛けた。 石田と高井は、晴れてる日には決まってこの場所で飯を食う。油か原料のゴムで汚れたのか作業服の胸から腹にかけて黒い染みとなっている。いくら... 続きをみる

    nice! 3
  • イブ#その14

    走り出して直ぐにスーツの襟の後部からヘッドカバーを抜き出して被った。両サイドの耳が当たる処に、右側がヘッドホンと同じ傍受機が付いていて左側は自分を中心に半径50キロまでの、様々な情報が入ってくるようになっている。言葉の洪水にもコンピューターが素早く選別しランク付けをする。聖徳太子は同時に10人の話... 続きをみる

  • イブ#その13

    20分後公園の石のベンチで、博士は仰向けになり夏雲を見ていた。途中でイブの背中を力一杯叩き、ようやくスピードを落とさせたが寿命が10年縮まった思いであった。(暴走・・?ふっ、エヴァじゃあるまいし・・・)と、苦笑しながら体を起こす。隣ではイブが背筋を伸ばしフリルの付いた涼しげな白の夏物ドレスと、それ... 続きをみる

  • イブ#その12

    次の日博士は6時前に起き、身支度と朝食を手早く済ませた。昨夜寝る前に計画を立て、それを実行するためだ。外に出て長い間使っていなかった自転車を軒下から出して、タイヤの空気圧を調べた。少し空いているようなので、空気入れでチューブに空気を送り込み「よーし」と満足げに一つ頷いた。家に戻りイブに仕度をするよ... 続きをみる

  • イブ#その11

    あの機能が働いているのは、朝食を摂っていた時に確認済みだった。そして今のジャンプでの実験は正常を裏付けしていた。パワーのオン・オフの使い分けを状況判断で切り替える機能のことだ。「じゃあイブ、この屋根の上に飛び上がってくれないか?」「ワカリマシタ」今までと表情が変わった。目つきが微妙に変化し肌の色が... 続きをみる

    nice! 1
  • 悪魔の掌中その21

    いつ動き出したのか気付かなかった。何時の間にか滑るように高級車は走り出していた。「久しぶりだな、佐竹。」身を乗り出して秀也が運転手に声を掛けた。「お久しぶりです、秀也ぼっちゃま。」ルームミラーから微笑みかけてる。「その言い方はやめろと言ってあるだろ!」やれやれと云う様にまた革シートにふんぞり返った... 続きをみる

    nice! 1
  • 悪魔の掌中その20

    扉を開け、中に入った途端どっぷりと冷気の海に突っ込んだ。斑目は迷う事なく左側の窓際テーブルに進んで行って、深々とソファーに座った。僕は初めて入った店なので、周りを見渡しながら恐る恐る座った。「アイスコーヒーでいいね?」メニュも見ず、僕の嗜好も訊かず氷水を持ってきたウエイトレスにオーダーした。冷たい... 続きをみる

  • 悪魔の掌中その19

    幾度もシュミレーションを繰り返し、ようやく纏まったのが昼過ぎだった。(フード付きのトレーナを着て、2時過ぎには家を出なきゃ、この体調では間に合わない。定期券を忘れない様にして駅まで普通5分だが、10分みなきゃ。で、各駅が、毎時30分に確か出ている筈だから、それに乗る。名古駅に着いたら降りて、出札口... 続きをみる

  • 悪魔の掌中その18

    『・・・よしー!清志ー!』母の呼ぶ声で目が覚めた。 視界が霞んでいる。幾度か瞼を瞬かせても、ぼやけた部屋が変わることはなかった。(何時?)時計は7時を示している。(7時?夜の?)窓の外を見ると、明るいから朝なのだろう。あの後、倒れ込んだまま眠ってしまったのか。悪い夢であってほしかった。体中、変な汗... 続きをみる

    nice! 1
  • 悪魔の掌中その17

    宇宙の果てまでも、今の自分なら飛んで行けそうな高揚感に満ち溢れじっとしていられなくなった。部屋を出て、駆け足で家を飛び出した。夕焼けが街を真っ赤に染めて、夕御飯の買い物に出掛けるおばさんや、近所の小学生達の帰る姿が目に付く。彼等に向かって「僕は天才なんだぞ~!!」と叫びたい気持ちがこみ上げてきたが... 続きをみる

    nice! 1
  • 悪魔の掌中その16

    薬を水と共に胃袋に流し込んだ後自分の部屋で不安と期待の入り交じった思いで机の上に両腕をのせて変化を待つ。数分もしないうちにそれは表れた。例えるなら今まで途絶える事なく淀んでいたストレスという霧が吹き飛んで雲ひとつ無い突き抜けるような澄んだ青空の中に居る様な最高の爽快感。全ての欲求不満から解放された... 続きをみる

    nice! 2
  • イブ#その10

     朝食をたいらげ、イブの皿を見てみると既にきれいになっている。 「ごちそうさま」と手を合わせるとイブも手を合わせた。「美味しかったかい?」と、聞くと少し間があいて頷いた。博士は食器類を片付け流し台に持って行き、替わりに少し大き目のコップに水をたっぷりと入れてイブに渡した。 暫くコップの水を眺めた後... 続きをみる

    nice! 1
  • イブ#その9

    イブと向かい合って食事をしながら、所博士はしみじみと思い出話を語りだした。 「私は人型ロボットを造ってみたいと幼少の頃から思ってはいたが、それは漠然としたものだった。そして年月の積み重ねによって少しづつ骨格が出来、おぼろげながら形がまとまりつつあった。しかしそれを造り上げて何になると考えた時、はっ... 続きをみる

  • イブ#その8

    お互いに一言の言葉も交わさずに向き合っていた。最も、イブは赤ん坊同然で、いや赤ん坊なら「おぎゃw」と泣くがそれさえもない。博士を視る眼は開いてはいるが、まるで夢遊病患者の如く焦点が定まっていない。しかし博士は内心喜んだ。目を開けたまま起き上がってこない事を想定していたからだ。(思った以上にインプッ... 続きをみる

  • イブ#その7

    その夜博士は凶夢にうなされていた。 突然巨大な怪物に襲われ粉々に飛び散る自分。暗闇に閉じ込められ、もがき苦しんでいる。そこに一筋の明かりが灯る。目を凝らすイブが白いドレスを身にまとい、感情のない表情で佇んでじっとこちらを見ている。「おおイブ!私を助けてくれ・・・身動きがとれないだ・・」跪きながら手... 続きをみる

  • 悪魔の掌中その15

    僕はしばらくの間手の平の錠剤を見つめて考えていました。彼はそんな僕を無言で視ていました。僕は頭の中で色々考えました。(即効性の頭の良くなる薬って有り得るのだろうか?もし本当ならおそらくノーベル賞ものだ。そんな凄い薬ならもっと世の中が騒ぐんじゃないか?僕はいままで、そんな情報聞いたことがない。優秀な... 続きをみる

  • 悪魔の掌中その14

    座れと勧められた清志であったが、うつ向いたまま動かなかった。「ちょっと・・・、清志君?」再び声を掛けかけた途端、いきなり正座して身を正した。そして号泣しながら床に顔を擦り付ける様に土下座した。 「どうも・・・どうも申し訳ありませんでした。僕がやった罪は理解してます。警察に知らせて頂いて構いません。... 続きをみる

    nice! 1
  • 悪魔の掌中その12

    ハヤテは夢を観ていた。それは摩訶不思議なゆめだった。柔らかいソフアーに座っている。やけに大きなサイズのソフアーだ。隣には巨人の様な男性がテレビを観ていて、時々こちらを見て優しい笑顔で話し掛けてくる。だが何を言っているのか、さっぱり解らない。自分は手にしているミニチュア・カーに夢中で相手なんかしてい... 続きをみる

  • 悪魔の掌中その13

    ハヤテは(ハッ!)として、即座に身構えた。なんという不覚。いきなり眠ってしまった。自分はどうかしてしまったのかと、自己嫌悪にも似た感情を抱きながら。 しかし、目に飛び込んできたのは虎ロープで縛られ横たわっている清志だった。クエッション・マークが、頭の中で幾つも点灯した。清志も今目覚めたらしく、驚い... 続きをみる

  • 悪魔の掌中その11

    即座にハヤテの身体が反応した。二階の踊り場まで一気に飛んだ。それはジャンプでもなけりゃ浮遊でもない。飛ぶという表現が当て嵌る。 昔の建家なので二階まで階段に沿って上がれば五,六メートル程。じいちゃんの下駄は履いていなかったが、現在のハヤテは精神集中をすれば、これぐらいの高さなら自力だけで飛べるよう... 続きをみる

    nice! 2
  • イブ#その5

    (あのころは楽しかったな) 授業中でもバイトでのことばかり考えていた。 入社したて、電子回路基盤と配線とのハンダ付けも初めての経験だから集中できた。しかもお金が貰えると思えば張りも出る。 3ヶ月があっという間に過ぎた頃、総務の林さんから事務室に来るように云われた。「どうだい?仕事は慣れたかな?」目... 続きをみる

    nice! 1
  • イブ#その3

    (あの頃の一人遊びが原点だった気がする)と遥か遠い過去に 思いを馳せ、稲光を見ている。(そして・・・)小、中、高と勉強をそっちのけにして暇さえあれば図書室で科学の専門誌を開いていた。授業はあくびが出るほどつまらなくクラスメイトが必死にノートをとり、テストがある度騒いでいるのが馬鹿くさく思えてならな... 続きをみる

    nice! 2
  • イブ#その2

    博士の胸に今過去の様々な出来事が浮かんでは消えた。 幼い頃から周りの人間が自分と違う生き物に思えて馴染めなかった 両親でさえも無駄な動きを繰り返す下等動物としか思えなかった。 5歳とき、父親がパソコンの調子がおかしいとディスプレィを凝視しつつ目を充血させ必死でキーボードを操作していた。 それを後ろ... 続きをみる

  • イブ#その1

    ひと際どす黒い雲の塊が辺りに落雷を撒き散らし耳を劈く雷音と共にみるみる屋敷に近付いてきた。 避雷針の真上までにそう時間はかからない。 避雷針とは文字通りにイメージすると避雷針の設置してある家屋や機器がそれによって落雷を避け被害を免れると考える者もいると思うがそれは違う。(現在は雷を避ける避雷器が主... 続きをみる

  • イブ#その6

    突如目の前を鋭く尖った光の矢が走った。間髪入れず『カリカリカリww』と空間を引き裂き『ドーンwww』と地響きが轟いた。(すぐそこまで来ている! )回想が吹き飛んで現実に引き戻された。急いでイブの許に戻り人間なら心臓にあたる部分にはめ込まれた透明なカプセルを凝視した。 中には大人のコブシ大もあるルビ... 続きをみる

  • イブ#その4

    門扉が開放されていたので、速度を落としながら警備室前を通り過ぎようとした。すると2メートル程手前で警備員が体を乗り出し腕を平行に伸ばしながら停止の合図をした。 ヘルメットを被っていたから聴こえ辛いと思ったのか、指で一角を示し(そこに停めろ)と意思表示した。(わかった)と言う代わりに首を2、3度振り... 続きをみる

  • 悪魔の掌中その10

    清志が入って来たが、麗美はいつもの様に挨拶もせず今日教えてもらうページを開き、そこを見ている。母の冴子に口が酸っぱくなる程、人に対する礼儀に気を付ける様に注意されているのだが、本人はどこ吹く風と知らん顔である。いつもなら、机にノートと筆記用具を置き、既に用意してある椅子に遠慮がちに座る清志なのだが... 続きをみる